診断後の禁煙の有用性

Longitudinal study to assess impact of smoking at diagnosis and quitting on 1-year survival for people with non-small cell lung cancer.

Gemine RE et al.
Lung Cancer. 2019 Mar;129:1-7.
PMID: 30797485

Abs of abs
非小細胞肺癌と診断された人々の喫煙率と、ベースライン時の喫煙状況とその後の禁煙が1年生存率と独立して関連しているかを検討した。試験デザインは診断から1年または死亡するまでの患者を追跡した実地コホート研究とし、1次医療と2次医療における英国の多施設(28施設)共同研究とした。対象は2010-2016年に新規に非小細胞肺癌と診断された1124人であった。
喫煙状況は診断時および定期通院および緊急受診毎に確認した。肺癌に対する治療は、ガイドライン従って行い、禁煙治療はその地域での従来通りのものあるいは利用可能なものが提供された。生存分析とCox比例ハザードモデルにより、1年後の生存とa)ベースラインでの喫煙、b)禁煙との関連性を調べた。結果として、非喫煙者の77%、元喫煙者の60%、および喫煙継続者の57%が1年生存していた(p=0.01)。年齢、病期、PS、手術および性別を調整した後、元喫煙者(調整ハザード比1.96[1.16-2.31])および現在の喫煙者(同2.04[1.19-3.48])はどちらも1年以内に死亡する可能性が高くなっていた。非小細胞肺癌の喫煙者のうち23%が診断後3ヶ月以内に禁煙した。1年後にで、禁煙した人の69%が生存、一方喫煙継続者では53%が生存していた(p<0.01)。調整後の死亡リスクも、禁煙患者では、有意ではないもののより低くなっていた(調整ハザード比0.75)(p=0.23)。本研究は非小細胞肺癌における禁煙の役割を検証した最大の前向き研究である。診断時に3分の1の人が喫煙していた。喫煙者は、非喫煙者や元喫煙者よりも12ヶ月生存率が低い。有意ではないものの禁煙は、他因子を調整した後でも、25%の死亡の減少と関連し臨床的に重要であると言えるだろう。

感想
手術に際しては禁煙をきつく伝えますが、抗がん剤治療に関してはやや甘くなってしまいます。しかし肺癌を治療する上で禁煙支援が欠かせないことを再認識させる論文です。
今回は非喫煙者を生涯100本以下で、呼気CO<10ppmと定義、また元喫煙者を生涯100本以上かつ呼気CO<10ppm、現喫煙者を30日以内の喫煙とCO>=10ppmと定義しています。また診断されてからの禁煙に関しても、定期的な呼気CO測定できちんと裏付けをとっている点が今回の研究の信頼性を高めています。結果について要旨にすべて記述されていますが、一つ上げるとすればステージが若く、外科手術になった方が禁煙率が高くなっています(ステージⅠ/Ⅱの割合、禁煙者36.6%、喫煙継続者18.1%。手術では32.4%、7.2%)。根治かどうかは動機づけに大きくかかわるようです。禁煙が予後に影響を及ぼす理由として、喫煙により動物モデルで腫瘍増殖速度が上がること、2次癌の可能性が高まること、抗がん剤抵抗性が高まること[Volm M BJCancer1990 PMID:2167122]が挙げられています。参考文献にあるように、昨年日本からは他がんも含めた検討で、診断後の禁煙により11%の死亡リスク減少が報告されています[Tabuchi T Int J Cancer2017 PMID:28073149]。特に肺癌はハザード比0.895[0.806-0.993]と他癌より禁煙効果の確実性が示唆されます。また今回は本人の禁煙ですが、過去には副流煙も予後影響することが報告されています[Eng L JCO2014 PMID:24419133]。分子標的治療など華々しい分野ではありませんが、確実に生存率を高めるために押さえておくべき部分でしょう。現在私は禁煙指導に直接関わることはないのですが、今後は意識して禁煙の意義を伝えたいと思います。