IrAEを抑えるためのステロイドは、最大量が少ない方が良い

Corticosteroids for Immune-Related Adverse Events and Checkpoint Inhibitor Efficacy: Analysis of Six Clinical Trials.

Verheijden RJ et al.
J Clin Oncol. 2024 Nov;42(31):3713-3724.
PMID:39110922.

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悪性黒色腫に対する免疫チェックポイント阻害薬投与において、irAEの免疫抑制治療が生存を悪くすることが後ろ向き研究で示唆されている。今回は国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験のデータを用いて、腫瘍型別にこの関連を検討した。6つの臨床試験(CheckMate-067、142、214、648、743、9LA)の抗PD-1+抗CTLA-4治療群の個々の患者データを用いて、事後解析を行った。 治療関連有害事象(trAE)のために全身性の免疫抑制治療を受けた患者のうち、副腎皮質ステロイドのピーク用量および累積用量、2次免疫抑制剤の使用と全生存期間および無増悪生存期間との関連を、年齢および性別で調整した多レベルCox回帰を用いて評価した。 抗PD-1+抗CTLA-4療法を受けた患者1959例のうち、trAEに対して免疫抑制剤を使った患者834例が組み入れられた。 834例(100%)が副腎皮質ステロイドを投与され、81例(10%)が次の免疫抑制剤を投与された。 副腎皮質ステロイドのピーク用量が高いほどPFSは悪化した:調整ハザード比(HRadj)はプレドニゾロン1mg/kg対0.5mg/kgで1.15[1.02-1.29]、プレドニゾロン2mg/kg対0.5mg/kgで1.43[1.05-1.96]であった。 OSについても同様でそれぞれ1.21[1.06-1.39]、H1.66[1.17-2.37]であった。 副腎皮質ステロイドの累積投与量は生存率と関連しなかった。 二次免疫抑制の使用はPFSで1.23[0.90-1.68]、OSで1.25[0.88-1.77]であった。trAEに対する副腎皮質ステロイドのピーク用量が高いことは、腫瘍の種類を問わず生存率の悪化と関連するが、累積用量は関連しなかった。 免疫抑制剤の2次使用の患者が少なすぎたため、生存率との関連を確認することはできなかった。 これらのデータは、可能な限りコルチコステロイドの低用量から始めるというirAE管理アプローチの再検討する必要があることを示唆する。

感想
免疫チェックポイント阻害薬の使用もだいぶ慣れてきた感がありますが、相変わらずirAEと呼ばれるものは頻発しています。時にグレード3以上の有害事象にも遭遇し、ステロイド投与量や期間あるいは、ICIの再投与を行うかどうかは議論があります。一方でirAEがある人ほど生存アウトカムが良いことも事実で、大量あるいは長期に渡るステロイド投与によりPCP肺炎、耐糖能異常などさらに合併症が増えてしまう可能性も出てきます。実臨床データでは、ステロイド投与量や減量ペースはかなりばらつきがあり、まとめにくいデータになります。今回はPSL換算で10㎎/dayを超える症例を集め(逆に言えばこれ以下は無視)、予後に影響を及ぼすのはピーク値か累積値かを、臨床試験でのデータで検討した研究です。irAE発症は、むしろ予後良好ですが、抑えるために高用量を使うことは予後不要と関連しました。実地でのこの因果関係の解釈は難しく、高用量のステロイドを使わざるを得ないかったのか、単にガイドラインに従ったのかわかりにくいところです。この点臨床試験データではirAE対策が、ある程度規定されており、ガイドライン通りに治療するとどうなるのか?という疑問に答えやすくなっています。今回のデータが貴重なのは、複数の臨床試験データの生データを使用して解析しており、メタアナリシスとは違った視点を提供した点が評価されます。実地データでは既に似たような研究[Bai X ClinCanRes 2021 PMID: 34376536]が報告されていますが、JCOに採択されたのはこの理由が大きいと思います。
長々と述べましたが、結論としてはシンプルで特に1mg/kgを超える高用量では生存が悪くなる可能性がある、ということです。言い換えれば、最初に思い切った量を入れて漸減するよりも、可能な限り少ない量で初めた方が良いかもしれないということが示唆されるわけで、今後の方向性に影響を与える可能性があります。