KRAS変異部位により背景、免疫療法への反応が異なる

Real-World outcomes of Non-Small cell lung cancer patients harbouring KRAS G12C and KRAS G12D mutations.

Shahnam A et al.
Lung Cancer. 2025 Feb12 Epub ahead of print.
PMID:39977966.

Abs of abs.
KRAS G12DとG12C変異は、治療効果に影響を及ぼす生物学的特徴が異なる。 今回はこれらの変異を有する進行非小細胞肺癌における背景および1次治療の転帰を検討する。AURORAデータベースのデータを用いた多施設共同後ろ向き観察研究である。2010年1月1日から2024年4月30日までにKRAS G12DあるいはG12Cを有する進行非小細胞肺癌と診断された18歳以上の患者を対象とした。合計298例(KRAS G12C群216例、KRAS G12D群82例)が組み入れられた。 KRAS G12D群では、非喫煙者(15%対1%、p<0.01)、PD-L1<1%(29%対15%、p=0.06)の割合が高かった。 全生存期間(ハザード比1.09[0.80-1.48]、p=0.60)、無増悪生存期間(ハザード比1.21、[0.92-1.59]、p=0.18)は群間で有意差は認められなかった。 KRAS G12Cでは、単剤免疫療法(ハザード比0.61[0.39-0.97]、p=0.04)と化学免疫療法(ハザード比0.59[0.37-0.94]、p=0.03)は化学療法と比較してOSを改善した。 KRAS G12Dについては、免疫療法(ハザード比0.74[0.29-1.89]、p=0.53)も化学療法(ハザード比0.73[0.34-1.57]、p=0.42)も化学療法単独と比較してOSを改善しなかった。KRAS G12C変異とG12D変異は、異なる背景と治療効果を示し、KRAS G12D患者では免疫療法の治療成績が不良であった。これらの所見を検証するためには、前向き研究が必要である。

感想
G12CとG12Dについては構造以外にいくつか違いが報告されています。G12Cは構造上-SH基があるため小分子がつきやすく治療薬開発の足場となります。一方G12Dではそのような構造がなく直接の阻害薬が作りにくいとされています。したがってG12Dではその下流シグナル(MAPK、PI3K経路)も標的になります。臨床背景としてはG12Dの方が大腸癌、膵臓癌でも見られ、喫煙との関連はG12Cの方が強いとされます。本文中にもあるようにPD-L1発現はG12Cの方が高い傾向にあるようです。同じKRAS変異でも似て非なる型にどのような違いがあるか実地で確認することは意義深そうに見えます。分子標的治療の存在の差はありますが(時期的に治験以外でほとんど関係ないと書かれています)、全生存を素で比べるとG12Cの方が、若干良いようにも見えます。また背景が不均一なので確定的なことは言えませんが、どうもG12Dの方が免疫療法、特に単独投与の効果が良くなさそうです。しかしこれがKRAS変異によって起こるのか、喫煙、PD-L1発現の差によって起こるのか正確な所はわかりません。さらに共変異についても追加で調べられており、免疫治療の抵抗因子として知られているKEAP1やSTK11では、G12DでSTK11はより多く認められていました。類似研究としてKRAS変異部位別の免疫療法の成績を見た報告[Sun L JTOCliResRep2024 PMID:39758602]がすでにされており、PD-L1=50%以上でKRASG12CとDが野生型と同等、G12Vが悪いとの報告もあります。