KRAS G12C陽性の初回は分子標的治療か免疫か

A Single-Arm Phase 2 Study of Sotorasib Plus Carboplatin and Pemetrexed in Patients With Advanced Nonsquamous NSCLC With KRAS G12C Mutation (WJOG14821L, SCARLET).

Akamatsu H et al.
J Thorac Oncol. 2025 Jun;20(6):775-785.
PMID:39828218.

Abs of abs,
KRAS G12C変異非扁平上皮非小細胞肺癌に対するソトラシブ+プラチナ2剤併用化学療法の有効性と安全性に関するデータは乏しい。今回のSCARLET試験は、化学療法未治療のKRAS G12C変異陽性患者を対象とした単群第2相試験である。治療としてソトラシブ960mgとカルボプラチン(AUC=5)/ペメトレキセド500mg/m2を4サイクル投与され、その後病勢進行するまでソトラシブ/ペメトレキセドが投与された。 主要評価項目は奏効率で、副次項目として無増悪生存期間、全生存期間、安全性であった。また血漿検体を用いて、ベースライン時、3週間後、病勢進行時に次世代シーケンサーによる解析を行った。2021年10月から2022年7月までに30例の患者が登録され、追跡期間中央値は14.8ヵ月であった。奏効率88.9%(80%[CI]:78.5%-94.8%、95%CI:70.8%-97.6%)、PFS中央値は6.6ヵ月[5.3-16.7]、全生存期間中央値は20.6ヵ月[8.1ヵ月-NE]であった。PD-L1=1%以上および1%未満の患者での奏効率は82.3%および100%であり、PFS中央値はそれぞれ7.6ヵ月および9.7ヵ月であった。 血漿でベースライン時にKRAS G12Cがない患者、KRAS関連経路の共変異がない患者、または3週間後にKRAS G12Cが消失した患者の方が、PFS中央値が良好であった(それぞれ16.7、13.9、8.7ヵ月)。 TP53変異、EGFRおよびMETの増幅が獲得耐性として検出された。KRAS G12C変異陽性において、ソトラシブとカルボプラチン/ペメトレキセドの併用療法は、特にPD-L1=1%未満の患者において、管理可能な毒性とともに良好な有効性が見られた。

感想
遺伝子変異に対する分子標的治療は先に使う方が良い結果を生んできました。しかしKRASについてはなかなかはっきりした結果が出てきませんでした。理由の一つとして”actionable mutation”の中ではKRAS変異は比較的免疫療法が効きやすいとされてきました[Mazieres J AnnOncol2019 PMID:31125062]。またKRAS変異はPD-L1発現が高いという報告も多く、ソトラシブかICIのどちらを先に使うかという議論があるわけです。今回は未治療例に対してプラチナ+ペメトレキセド+ソトラシブの試験で、奏効率は9割弱と良好でしたが、全体でPFSは6.6ヵ月、セカンドラインで使用したCodeBreak200試験[de Langen AJ LANCET2023 PMID:36764316]での結果が5.6ヵ月(奏効率は28.1%)ですので少し物足りません。一方ICIの方もKRAS変異部位によっても反応が異なるとの報告もあり、遺伝子変異有の集団では効きやすいとは言えるものの、遺伝子変異がない集団と比較すれば効果は劣るように見えます。これはKRASと共変異として存在するSTK11やKEAP1、TP53などの割合が高いことが原因として考えられています。蛇足ですがこれらの耐性克服にはCTLA-4阻害薬が有望視されています[Skoulidis F Nature2024 PMID:39385035]。結局どちらにしろKRAS変異に対しては決定打ではなく、使える選択肢を繋いでいくことしか現実にはできません。その意味で今回のレジメンが使えるのかの議論が必要になります。有害事象はG3以上の血小板減少が28%、好中球減少が28%、貧血が38%と単純にプラチナ+ペメトレキセドをやるより強まるようです。ただG3以上のALT上昇は6.9%と少な目でした。総じて有害事象は管理可能であり、レジメンとしては「使える」ということになります。PD-L1<1%で良好な傾向でした。ひょっとするとKRASは、将来的にはPD-L1発現割合によって初回治療が別れるということになるかも知れません。