PD-L1超高発現の生存データ:90%がカットオフ?

Outcomes to first-line pembrolizumab in patients with non-small cell lung cancer and very high PD-L1 expression.

Aguilar EJ et al.
Ann Oncol. 2019 Aug 21. [Epub ahead of print]
PMID:31435660

Abs of abs.
PD-L1発現が50%以上の非小細胞肺癌において、ペムブロリズマブによる治療はプラチナ2剤の抗がん剤治療を上回る成績を示した。しかしPD-L1発現が50-100%の中で、より高い発現を示していれば、その分利益を受けられるかどうかは明らかではない。今回は実地臨床においてPD-L1発現50%かつEGFR/ALK陰性、初回治療としてのペムブロリズマブを使用した症例を多施設後ろ向き研究で集め、PD-L1発現が奏効率、無増悪生存期間、全生存期間に関与するかを調査した。187人が研究に入り、奏効率は44.4%[37.1-51.8]、無増悪生存期間中央値は6.5ヶ月[4.5-8.5]、生存期間中央値には到達しなかった。ペムブロリズマブ治療が奏効した症例のPD-L1発現は、病勢安定あるいは病勢進行例と比べ有意に高かった(90% 対 75%、P<0.001)。90-100%と50-89%での比較を行うと奏効率は明らかに前者が高く(60.0% 対 32.7% 、P<0.001)、無増悪生存期間も14.5ヶ月 対 4.1ヶ月、ハザード比0.50[0.33-0.74]、生存期間中央値も未達 対 15.9ヶ月、ハザード比0.39[0.21-0.70]、P=0.002であった。今回の結論としてPD-L1=50%以上かつ初回ペムブロリズマブ治療を受けた患者の中のおいて、PD-L1=90%以上で奏効率、生存率の改善が見られた。この結果は今後の臨床試験の解釈および設計、治療選択に影響を与えると思われる。

感想
KEYNOTE-001試験[Garon EB NEJM2015 PMID:25891174]の結果から、PD-L150%以上で特にペムブロリズマブの効果が高いことが知られました。未治療例においてPD-L1が段階的、すなわち50%以上、1-49%、1%未満に分けた場合PFS、OSに差が見られることも観察されました。今更ですが、このカットオフ値は奏効率とPD-L1発現をROC解析し、最適カットオフポイントが47.5%であったため切り上げて50%を採用しています。蛇足ですが、最近このKEYNOTE-001試験の長期成績が発表されています[Garon EB JCO2019 PMID:31154919]。それによると50%以上で未治療例における、生存期間中央値は35.4ヶ月、5年生存率は29.6%に達しており、既治療例でも同15.4ヶ月、25.0%と報告されています。なお未治療例の生存曲線は5年の直前で、見かけ上大きく落ちていますが、直前の打ち切りが多く、観察期間を延長すれば5年生存率は40%くらいまで大きく上がる可能性があります。
今回の研究で本文に出ているのは、50-89%、90%以上での比較ですが、補遺資料に75%以上、50-74%で分けた解析も出ています。奏効率は53.6%対30.7%、PFSが7.8ヶ月対4.3ヶ月、ハザード比0.63、P=0.02でしたが、OSでは未達対20.3ヶ月、ハザード比0.62、P=0.07でした。本来はこれが主たる解析結果となるはずでしたが、OSに有意差が見いだせなかったためか90%という別のカットオフ値を持ち出しています。90%をカットオフにしたのは奏効率、PFS、OSに関して”A recursive partitioning algorithm”での最適カットオフポイントが87.5%であったこと、レスポンス症例のPD-L1発現の中央値が90%であったことを根拠にしています。本文には追加解析した(explored clinical outcome)と書かれています。このような経過が分かった上で結果をみるべきで、いくら有名施設でIFの高い雑誌に載っているといっても、このカットオフ値の正当性は今後十分吟味されねばなりません。ちなみにこの「A recursive partitioning algorithm」は、Rのパッケージでrpartを使って行います。要は様々因子を入れると重要度の高い因子を自動的に拾い上げ、カットオフポイントも決めてくれるという決定木解析です。ご興味のある方は「決定木分析 rpart」で検索すると概要は知れると思います。言いたいのは90%というカットオフ値もかなり恣意的であり、今後の検証に耐えねばならないということです。またPD-L1=90%以上で、PS不良例あるいは超高齢者でも利益があるのかも知りたいところです。