ROS1陽性は血栓塞栓症のハイリスク群

A multicenter study of thromboembolic events among patients diagnosed with ROS1-rearranged non-small cell lung cancer.

Alexander M et al.
Lung Cancer. 2020 Apr;142:34-40.
PMID:32087434

Abs of abs.
今回はROS1変異陽性の非小細胞肺癌における長期的な血栓塞栓症リスクについて検討した。6つのオーストラリアの病院のROS1変異陽性例を集積し発生頻度、時期、静脈あるいは動脈血栓塞栓症かを評価し、同時に奏効率と全生存期間を計測した。42人が登録され、20人(48%)に血栓塞栓症が見られていた。1人(2%)は動脈性で13人(31%)は肺血栓塞栓症、12人(29%)は深部静脈血栓症であった。これらの血栓塞栓症のうち6人(30%)は多発であった・3人は同時多発、3人は再発診断であった。競合リスクとしての死亡で調整した累積発生は50%に近づいた。診断前あるいは治療中、その後の血栓塞栓症の発生は治療とは関連がなかった。血栓形成傾向は30%に見られ、2人が第Ⅴ因子ライデン異常、一人がATⅢ欠損であった。血栓塞栓症が見られた群の全生存期間中央値は21.3ヶ月、見られなかった群では28.8ヶ月でハザード比は1.16[0.43-3.15]であった。初回治療の化学療法の奏効率は前者で50%、後者で44%、分子標的治療で前者67%、後者50%であった。今回の実地データからROS1変異陽性について治療の種類、診断の前後と関係なく血栓塞栓症のリスクが高いことが示された。肺塞栓血栓症の割合やその時期については大規模コホートでの確認が求められる。ROS1陽性例に関しては血栓の一次予防の検討が推奨される。

感想
一年ほど前にROS1変異では血栓塞栓症が多いとする報告[Ng TL JTO2019 PMID:30543838]がなされ、それを支持する報告です。今回の発症時期は中央値で診断から1.8ヶ月であり、故障率の曲線では6ヶ月頃まで急速に増加、その後ややなだらかになる印象です。おそらく治療効果や病勢進行などに影響され、癌の病勢が抑えられれば血栓形成もある程度抑えられるのでしょう。おそらく終末期にかかるほど更に血栓傾向は進むのでしょうが、その頃には他の重大な症状の対応が必要となりあまり積極的な検索はなされないものと思われます。肺癌患者全体に対する(低分子ヘパリンによる)血栓予防への積極的な介入はFRAGMATIC試験[Macbeth F JCO2016 PMID:26700124]で明確な利益を示せませんでした。他の血栓予防の研究と同様、血栓自体は減らせるが出血イベントの増加により全体としてバランスが見極めにくいという結果になります。今回の論文でも述べられていますが、ROS1変異陽性で目立って血栓傾向が高く、なおかつ分子標的治療で治療期間が長くなるのであれば一次予防の検討に上がってくるでしょう。昨年の既報にある通りALK陽性も他の肺癌より血栓傾向が高そうですので、ALK/ROS1陽性では血栓を特に念頭に置いて診療する必要がありそうです。