T-Dxdは肺臓炎後に再投与可能か?

Pooled analysis of trastuzumab deruxtecan retreatment after recovery from grade 1 interstitial lung disease/pneumonitis.

Rugo HS et al.
Ann Oncol. 2025 Aug4:Epub ahead of print.
PMID:40769277.

Abs of abs.
多くの固形癌に対する抗体薬物複合薬であるトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)は、間質性肺疾患/肺炎(ILD)のリスクを伴う。ガイドラインでは一般的に、グレード1のILDに対してはT-DXd治療の中断を義務付けているものの、画像所見の消失後に再治療の可能性もある。今回のプール解析では、グレード1 ILDからの回復後のT-DXd再投与期間とILD再発を検証した。T-DXd(5.4-8.0mg/kg)投与を受けた、様々なHER2陽性、HER2低発現、またはHER2(ERBB2)変異型固形がん患者を対象とした9つの臨床試験からデータをプールした。ILDイベントは研究者により報告・グレード分類され、独立したILD判定委員会により関連性を確認した。主治医評価グレード1かつ判定委員会確認の薬剤関連ILDイベント(ILD1)から回復した患者は、初回に限りT-DXd再投与を可能とした。患者は疾患進行またはデータカットオフまで追跡された。統合された2145例の患者のうち、9%(193/2145)がグレード1のILD1を発症し、そのうち23.3%(45/193)がT-DXdによる再治療を受けた。再治療期間の中央値は85日(1~848)であった。17.8%(8/45)の患者が1年以上T-DXd再治療を受けた。再治療を受けた患者の33.3%(15/45)でILD再発(ILD2)が認められ、T-DXd再治療からのILD2発生までの中央値は64日(22-391)であり、低グレードであった(グレード1:6例、グレード2:9例、グレード≥3または致死的事象はなし)。T-DXd再投与中止の理由は、病勢進行(33.3%[15/45])、ILD再発(20%[9/45])、非ILD有害事象(17.8%[8/45])、主治医判断(4.4%[2/45])であった。解析時点において、再治療患者の24.4%(11/45)が治療継続中であり、ILD2を呈した患者の大半(60%[9/15])は後遺症の有無にかかわらず回復していた。今回の大規模プール解析は、グレード1 ILDからの回復後のT-DXd再投与の安全性を示した。患者の3分の1でILDが再発したが、全再発事象はグレード1/2であり、既存の治療ガイドラインで管理可能であった。グレード1の薬剤関連ILD解消後のT-DXd再投与は、治療効果を最大化する可能性がある。

感想
薬剤性肺炎は、過去30年ほどの間に注目されるようになってきました。1990年代後半の小柴胡湯による事例や、肺癌領域では2000年代前半のゲフィチニブによる肺障害が特に有名です。これらの騒動を知らない世代も増えていますが、分子標的治療薬による肺炎に対して、わずかな兆候でも慎重な対応が求められるのは、こうした経緯が背景にあります。
さて、T-Dxdについてですが、肺癌を対象としたDESTINY-Lung01試験[Li BT NEJM 2022 PMID:34534430]では、28%の患者に肺炎(ILD)が発症しました。減量投与を行ったDESTINY-Lung02試験[Goto K JCO2023 PMID:37694347]でも、発症率は少し下がりましたが13%と依然として高い水準です。軽度であっても肺炎を発症した場合は治療を即時中止し、再投与は推奨されません。しかし、HER2陽性肺癌に対しては代替薬が存在せず、可能な限り本剤の効果を最大限に引き出したいというニーズもあります。
今回の報告では、初回のT-Dxd治療開始からILD発症までの期間中央値は、再治療を受けた45人の患者で210日でした。ILD発症後の再治療開始までの期間中央値は28日です。当時の基準では、グレード1のILD発症からグレード0への回復まで49日以内であれば再投与が可能とされていましたが、現在ではこの期間が18週間(126日)以内に延長されています。
注目すべき点として、初回のILD発症時にグレード1であった患者でも50.3%にステロイド治療がされています。結果的には、再治療を受けた患者で、初回ILD時点で68.9%がステロイドを使用していました。再治療後に再度ILDが発症した患者では、53.3%にステロイドが投与されており、そのうち75%が回復しています。やや複雑ですが、2回目のILDでステロイドが投与された患者のうち25%(2/8)がグレード1、75%(6/8)がグレード2でした。なお、ステロイドを使用しなかった患者も含め、再投与によってILDが致死的となった例は報告されていません。
現在の一般的なガイドラインでは、T-Dxd治療開始から1年間は6-12週ごとのHRCTによるモニタリングが推奨されており、グレード1の肺炎でもステロイド治療が推奨されています。今回のデータから再投与の安全性が確立されたとは言えませんが、特に本剤による治療利益が期待される症例では、肺炎発症までの期間が比較的長く、重症度が低く、ステロイドの使用有無にかかわらず回復が早い場合には、再投与を検討する余地があると言えるデータになっています。