T790M陽性例へのオシメルチニブ+ベバシズマブの不思議な結果

Efficacy of Osimertinib Plus Bevacizumab vs Osimertinib in Patients With EGFR T790M-Mutated Non-Small Cell Lung Cancer Previously Treated With Epidermal Growth Factor Receptor-Tyrosine Kinase Inhibitor: West Japan Oncology Group 8715L Phase 2 Randomized Clinical Trial.

Akamatsu H et al.
JAMA Oncol. 2021 Jan 7
PMID:33410885

Abs of abs.
T790M変異を有する肺腺癌患者において、オシメルチニブ単独療法と比較してオシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法の有効性と安全性を検討した。(第3世代EGFR-TKI以外の)EGFR-TKIの前治療で進行が見られT790M変異を獲得した進行肺腺癌患者を登録した。本試験は、6名の先行部分と、それに続く第Ⅱ相部分で構成されている。第2相試験では、患者はオシメルチニブとベバシズマブを併用する群とオシメルチニブ単独群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。併用群では、病勢進行または許容できない有害事象が生じるまで、オシメルチニブの経口投与(80mg)とベバシズマブの静脈内投与(15mg/kg、3週毎)を行った。対照群はオシメルチニブ単剤療法を行った。プライマリーエンドポイントは,主治医評価の無増悪生存期間(PFS)であった。副次項目として、奏功率、治療失敗までの期間、全生存期間、安全性とした。2017年8月から2018年9月までに、合計87人の患者が登録された(先行部分6人、第Ⅱ相部分に81人[intention-to-treat population])。年齢中央値は68歳(41~82)、33(41%)が男性、PS0が37人(46%)、21人(26%)は脳転移を有していた。奏功率はオシメルチニブ+ベバシズマブ併用でオシメルチニブ単独よりも良好であったが(68%対54%)、PFS中央値はオシメルチニブ+ベバシズマブ併用では延長していなかった(9.4カ月対13.5カ月、ハザード比1.44、80%CI[1.00-2.08]、P=0.20)。治療失敗までの期間も、併用療法群とオシメルチニブ群では、併用療法群の方が短かった(8.4カ月対11.2カ月、P=0.12)。全生存期間中央値は、併用療法群とオシメルチニブ群で差が見られなかった(未到達 vs 22.1カ月、P=0.96)。併用療法群において、グレード3以上の有害事象は、蛋白尿(n=9;23%)、高血圧(n=8;20%)であった。オシメルチニブとベバシズマブの併用療法とオシメルチニブ単独療法を比較した今回の試験から、T790M遺伝子変異を有する進行肺腺癌において、併用療法群はPFSの延長を示すことができなかった。

感想
これまでVEGF阻害薬上乗せの試験は、PFS有意、OS有意差なしがほとんどで、今回のようにPFSでも差がつかず、それどころかむしろ負けているのは初めてです。全生存期間はほぼ重なっており、優位性はまったく感じられません。今回は症例数も少ないため偶然の要素もあるかもしれませんし、オープンラベルの主治医評価のPFSであった点も(良い方にも悪い方にも)少し問題があったかもしれません。原因としてオシメルチニブ+ベバシズマブ群で前治療に血管新生阻害薬が入っている人のPFSが極端に悪いことが挙げられており、腫瘍環境が変化している可能性を述べています。同様の試験は他になく比べようもないのですが、初回治療としてのオシメルチニブ+ベバシズマブのPFS中央値は19ヶ月であった[Yu HA JAMAOncol2020 PMID:32463456]との報告があり、FLAURA試験のオシメルチニブ単剤のPFSが18.9ヶ月と比較してもあまり伸びていません。もちろん異なる臨床試験の比較はご法度です。しかしもし今回の試験結果が偶然でないとすれば、オシメルチニブは第1.2世代と違った未知の作用が隠れているような気がします。特にICI直後での投与も問題であり、同時併用も前後の薬剤選択も、未知のものはしばらく避けた方が良いかもしれません。初回治療のオシメルチニブ+血管新生阻害薬の第Ⅲ相試験の結果を見るまでは、この薬は単剤での投与に留めるべきでしょう。