TPS高、PS不良に対するペムブロリズマブ単剤の長期奏効因子は依然として不明

Long-term outcomes from pembrolizumab monotherapy in patients with advanced NSCLC, PD-L1 expression ≥ 50 %, and poor performance status: Transformer-based AI to characterize prognostic complexity.

Cortellini A et al.
Lung Cancer.2025 Epub 2025 Oct 16.
PMID:41108882.

Abs of abs,
ECOG-PS 2以上の進行非小細胞肺癌における初回治療としての免疫療法は、この集団が主要臨床試験から除外されており、論争中である。実地データからは、生存期間中央値は不良であるものの、この患者群の一部は長期的な利益を得られる可能性があることが示唆されている。5年以上の追跡調査を有するグローバルな実臨床データセットであるPembro-Real 5Yレジストリのデータを分析した。対象コホートは、臨床試験外で第一選択ペムブロリズマブ治療を受けた進行期非小細胞肺癌患者で、PD-L1 TPSが50%以上の患者である。生存に関連する詳細な特徴を特定するため、単変量解析を実施した。長期予後予測の複雑性に対処するため、Elastic Net回帰とトランスフォーマーベースAIモデル(NAIM)を統合した。Elastic Netモデルは共線性を緩和し関連予後因子を選択するために、NAIMは変数間の非線形・時間依存的相互作用を探索するために用いた。エンドポイントは全生存期間および5年生存率とした。1050例の患者からECOG-PS ≥ 2の161例を抽出し、中央値OSは5.4ヶ月[3.8-7.8]、5年生存率は13.0%[8.1-19.9]であった。単変量解析では、TMB、KRAS、BRAF以外の、5年生存率を強く予測する単一ベースライン変数は認められなかった。しかしこれらの値は欠損値が多かった。Elastic Netは5年生存率の有意な予測因子として、不安定な信頼区間を伴う高TMBとKRAS変異の2因子のみを同定した。NAIMでは大まかに骨転移とベースライン時のコルチコステロイド使用が早期死亡の強力な予測因子であることを確認した。またBMI増加と全身的健康指標/宿主要因(例:高血圧、脂質異常症)は長期生存者において重要性を増した。しかしNAIMは、トレーニングでうまくいっても検証の段階で顕著な性能低下を示し、過剰学習とベースライン変数から長期アウトカムへのモデリングの難しさが示唆された。
全体的な予後は不良であるものの、ECOG PS ≥ 2の患者サブグループではペムブロリズマブ単剤療法による長期生存が達成され、PSだけで全ての症例を治療対象外とすべきでないことを示唆している。本解析は、この異質性の高い集団における長期的な利益予測において、従来の統計的手法やAI駆動モデルの限界を浮き彫りにした。今後の取り組みでは、ハイブリッドモデリング戦略の洗練と前向き検証の組み込みに焦点を当て、短期的な期待を超えた免疫療法の恩恵を受け得る患者をより適切に特定すべきである。

感想
今回はペムブロリズマブの1000人以上のデータベースから、PS2以上の161人を取り出し、長期生存に寄与する背景を探ろうとした研究です。データベースには欠損値が多いため、最新の方法を使ってテクニカルに欠損値の補完を回避し解析(NAIM:2024年)、また従来の多変量解析にも最新の強固な方法(Elastic Net回帰:2005年)を使った報告です。多変量解析で採用した変数が互いに相関が強い場合にモデルが不安定になります。これを多重共線性といい、解決する一手法がElastic Net回帰です。これはLasso(L1正則化)とRidge(L2正則化)を組み合わせた新しい手法としてZouらにより提案されました。平たく言えば多変量解析の精度向上に使われる指標です。一方NAIM (Not Another Imputation Method)は、生成AIに革新をもたらしたトランスフォーマー技術を欠損値補完(というか補完せずに扱う)に応用したもののようです。Elastic Net回帰はRではglmnetパッケージで実装できますが、NAIMは今のところRでのパッケージはなく、PythonではPyTorchの使用下で実装出来ます。面白いのは最大級のデータベースを使い、最新の解析を行ったが結局よくわからないということです。
ICIも使われ始めて長期間になります。しばらくたった時には使いどころも、効く効かないも分かった気でいました。ちょうどNLRやhot/cold tumorなどが流行った時期です。しかしその後症例を積み重ねると、PS不良でも炎症高値でも劇的に奏効する症例もあり、逆もまたしかりで、ICIの効く効かないもirAEも奥深くつかみどころがありません。したがって現時点の私の感触は「ICIは本当にわからない」です。そんな所に今回の論文を読み、たとえ最新技術のAIを使っても「わからないことが分かった」という結論で興味深く取り上げた次第です。繰り返しになりますが、今回わかったことはシンプルで「PS≥2でもペムブロリズマブ単剤の利益を大きく受ける集団がいることが分かったが、その背景因子はよくわからない」ということです。