喫煙による遺伝子変異と免疫微小環境

Association between the mutational smoking signature and the immune microenvironment in lung adenocarcinoma.

Sato K et al
Lung Cancer. 2020 Sep;147:12-20.
PMID:32652369

Abs of abs.
喫煙に関連する変異の特徴(喫煙関連遺伝子変異:SS)は、主にC>A変異によって特徴づけられる。今回は、肺腺癌における腫瘍免疫微小環境とSSとの関連を調べた。全エクソームシークエンシングデータが利用可能であった外科切除された96人の肺腺癌を対象とした。全エクソームシークエンシングデータからSSを抽出し、deconstructSigsを使ってSS重量を計算し、SS陽性(SS+)と陰性(SS-)の臨床背景を比較した。SS陽性と陰性腺癌から18組の性別、EGFR変異、腫瘍サイズをマッチさせたペアを作成し、5つの免疫マーカー(CD20、CD8、FOXP3、CD204、PD-L1)の発現を免疫染色を使って調べた。96検体のうち、SS陽性の腺癌は33例(34%)であった。喫煙指数はSS重量と有意に相関していた(R=0.43)。SS陽性とSS陰性の間では、喫煙歴を除く臨床病理学的因子に有意差はなかった。免疫染色により、SS陽性の FOXP3+T細胞数は SS陰性よりも有意に多かった(中央値58対36、p<0.01)。また、SS陽性のCD20+B細胞数はSS陰性よりも有意に多かった(中央値77対29、p<0.01)が、この現象は喫煙歴で層別化した場合には見られなかった。本今回の研究から肺腺癌においてSSは免疫を抑制する腫瘍微小環境と関連していることが示唆される。

感想
Fig2Bに喫煙とSSとの関連が示されています。相関係数=0.43で中等度の相関が認められるという判断になり、当然とは言え喫煙とSSがきちんと関連していることが示されます。FOXP3+は制御性T細胞と関連しており、CD8+T細胞が免疫療法の効果と関連すると言われています。今回はSSがある腺癌にはTregが多く存在するということであり、その結果腫瘍微小環境で免疫抑制がかかっているということを示しています。紛らわしいですが、喫煙歴の有り無しで見た場合、喫煙歴のある方がFOXP3+は多い傾向にありますが、有意ではありませんでした(P=0.09)。つまり喫煙そのものより、SSが出ているかどうかで状況が変わりうることがあることになります。免疫療法の効果とSSとの関連をぜひ知りたいところですが、残念ながら今回は調べられていないとのことです。喫煙者になぜ免疫療法が効きやすいのかは、はっきりした答えがありませんでした。腫瘍微小環境は理屈とうまく合いそうで続報を期待しています。