ペメトレキセドの長期投与による腎毒性

Cumulative pemetrexed dose increases the risk of nephrotoxicity.

de Rouw N et al.
Lung Cancer. 2020 Aug;146:30-35.
PMID:32505078.

Abs of abs.
ペメトレキセドは、非小細胞肺癌治療の薬物療法の基本となる薬剤である。ペメトレキセドは主に腎排泄にであるため、十分な腎機能であることが有害事象を防ぐために必要である。ペメトレキセドの持つ腎毒性の根拠が増えており、最近の免疫療法との併用でより生存期間が延びていることから、さらに大きな問題となって来ている。今回は ペメトレキセドベース治療での、腎毒性の発生率および関連する治療について検討した。オランダの病院で後ろ向き研究を行った。対象は少なくとも1サイクル以上のペメトレキセドをベースとした治療を受けた患者とした。主要アウトカムは、eGFRが25%以上低下したことと定義した。さらに、腎機能低下に対する治療経過も評価した。ロジスティック回帰により治療中の腎毒性の危険因子を同定した。359人の患者が対象となり、うち21%の患者は治療後の腎機能低下があり、8.1%の患者は腎毒性のために治療を中止していた。累積投与量(10サイクル以上のペメトレキセドベースの治療)が腎機能低下の危険因子であった(調整オッズ比 5.66[1.73~18.54])。本研究からペメトレキセドベースの治療で腎障害を発症するリスクがあることが示された。治療の長期化に伴ってリスクは有意に増加する。現在、ペメトレキセドベースの免疫療法により生存期間が長くなっている。その結果、腎障害はさらに大きな問題となることが予想される。

感想
estimated glemerular filtration rate(eGFR)の計算式は「194×Cr^(-1.094)×年齢^(-0.287) (女性はさらに×0.739)」で表されます。血液検査結果で自動計算されていますが、抗がん剤ではまだCCrの方が多いです。CCrの方はCockcroftの式に体重が必要なので、eGRFの方が手軽ではあります。今回治療開始前eGFRと治療終了時のeGFRの差分を用いて評価しています。開始前中央値87.8±15.4→79.2±22.5と低下傾向にあることは明らかです。eGFRが25%以上低下は21%に見られました。些細なことですがeGFR差分(delta-eGFR)の定義として(開始前-終了時)/開始時と本文にありますが、Fig1との関連からすると(終了時-開始時)/開始時の方が適切かと思います。統計手法はかなり危うい印象です。多変量ロジスティック回帰を使ったとありながら結果の記述は調整オッズ比のみで、ボンフェローニの方法で補正するためP<0.005を有意にしたとか謎の記述が続きます。
それでもなお今回の研究を取り上げた理由は、今後しばらくはペメトレキセド+免疫療法が治療の中心であり、長期に渡って使用されることが確実であり、その中で「ペメトレキセドの累積投与量が腎毒性の発症の重要な危険因子である可能性があること」は重要な情報であるからです。また統計手法に問題があったとしても10サイクル以上がリスク因子であることは臨床の感覚と一致するように思えます。私は、最近の非小細胞肺癌の予後の延長は、ペメトレキセドの維持療法が寄与する部分が大きいと思っています。そのためペメトレキセドに関する臨床データには注目しています。以前取り上げたTTF-1陰性例に対するデータもそのような目で見ています。