ラムシルマブ+エルロチニブ出番はあるか?

Ramucirumab plus erlotinib in patients with untreated, EGFR-mutated, advanced non-small-cell lung cancer (RELAY): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial.

Nakagawa K et al.
Lancet Oncol. 2019 Oct 4. [Epub ahead of print]
PMID: 31591063

Abs of abs.
EGFR遺伝子変異陽性進行肺癌において、EGFRとVEGF経路の両方を阻害する戦略は実験の上でも臨床データでも支持されている。しかしこの方法はあまり広く使われていない。今回のRELAY試験では未治療のEGFR遺伝子変異陽進行肺癌に対して、標準治療であるエルロチニブにラムシルマブを加える臨床試験である。ラムシルマブはIgG1 VEGFR2拮抗薬であり、試験は13か国の100施設で行われた。適格基準は18歳以上(日本では20歳以上)、Ⅳ期非小細胞肺癌で19delかL858R変異を持つこと、PS0-1、中枢神経系に転移を有さないことであった。患者は1:1にエルロチニブ(150㎎)+ラムシルマブ(10mg/kg)またはプラセボに割り付けられ2週おきに投与された。ランダム化層別化因子は性別、地域、遺伝子変異、遺伝子測定方式であった。プライマリーエンドポイントは主治医評価の無増悪生存期間である。試験治療を一度でも受けたものについては安全性を評価した。現時点で生存期間のフォローアップを継続中である。2016-18年に449人がランダム化され、ラムシルマブ+エルロチニブに224人、プラセボ+エルロチニブに225人が割り付けられた。追跡期間中央値は20.7ヶ月である。無増悪生存期間は第一回解析においてラムシルマブ群で有意に延長していた(19.4ヶ月[15.4-21.6]対12.4ヶ月[11.0-13.5] ハザード比0.59[0.46-0.76];P<0.0001)。グレード3,4の有害事象はラムシルマブ群72%、プラセボ群54%に見られ、ラムシルマブ群での主なものは高血圧(24%)、皮疹(15%)、プラセボ群では皮疹(9%)、ALT上昇(8%)であった。治療中に出現した重大な有害事象としてはラムシルマブ群で29%、プラセボ群で21%で報告された。すべてのグレードの重篤な有害事象で多かったのはラムシルマブ群で肺炎(3%)、蜂窩織炎と気胸が2%、プラセボ群では発熱(1%)、気胸(1%)であった。またラムシルマブ群で治療関連死が1例あり、膿胸のドレナージ後の血胸であった。今回の試験から、未治療EGFR遺伝子変異陽性進行肺癌に対して、ラムシルマブ+エルロチニブの治療は、プラセボ+エルロチニブと比較して無増悪生存期間を延長した。安全性は個々の薬のこれまでの報告と一致していた。RELAYレジメンは実施可能な新しい有効な治療選択肢である。

感想
昨年に発表されているNEJ026試験[Saito H LancetOncol2019 PMID:30975627]と比較して検討する試験かと思います。単純比較でPFSは本試験のラムシルマブ19.4ヶ月、NEJ026のベバシズマブ16.9ヶ月でした。対照群のエルロチニブはそれぞれ12.4ヶ月、13.3ヶ月でした。NEJ026試験が無症候性脳転移を許容している点、ごくわずかですがPS2も入っている点はともかく、中央値で見ると差がありそうです。しかし両試験でのハザード比は0.59と0.605でほとんど差がありません。一回当たりの薬価はラムシルマブが10mg/kgで、60㎏の人とすると43万円です。一方ベバシズマブが15㎎/kgで、約36万円です。さらにラムシルマブが2週毎、ベバシズマブが3週毎です。毒性はグレード3以上が72%、88%となっており数字でみると若干ベバシズマブが高そうに見えます。別々の臨床試験を比較することは好ましくありませんが、おそらく効果は同等でありNEJ026が日本人だけのデータであること、その上薬価と投与間隔おいてベバシズマブが有利です。したがって仮に今TKI+VEGF阻害薬をするとすれば、私はエルロチニブ+ベバシズマブを選択すると思います。本試験ではDel19とL858Rでのサブグループ解析においても一貫してラムシルマブ群の優位性が保たれており、ハザード比も0.65、0.62とほとんど変わりません。補遺FigS2に未成熟ながら全生存期間も載っています。イベント数が2割に満たずなんとも言えませんが、ハザード比0.832で今後ラムシルマブ群が勝つ可能性は残されています。しかし今のところは同等としか評価できません。また増悪後にリキッドバイオプシーでT790Mを調べていますが、25%対30%と群間で大きな差は見られません。T790Mの出現率が多いとも少ないとも言えません。結局今は、初回治療としてオシメルチニブが選択されるケースが多いので、ラムシルマブ+エルロチニブが数字上同じPFSであったとしても毒性では勝負になりません。TKI+VEGF阻害薬は、ラムシルマブ/ベバシズマブ+オシメルチニブがどうかということにむしろ関心が持たれていると思います。今後ラムシルマブ+エルロチニブの出番があるとすれば、オシメルチニブの肺臓炎の危険因子が同定され、かつラムシルマブが安くなる、または本試験における全生存期間で差がついた時ではないかと思います。