免疫療法とサルコペニア~存在より減少するかどうかが大切

Cachexia – sarcopenia as a determinant of disease control rate and survival in non-small lung cancer patients receiving immune-checkpoint inhibitors.

Roch B et al.
Lung Cancer. 2020 Mar 5;143:19-26.
PMID:32200137

Abs of abs.
がん悪液質ーサルコペニアによる代謝の変化は、抗腫瘍免疫をダウンレギュレートする。今回はこれらの症候群が免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を減弱するのではないかという仮説を立て検討を行った。初回あるいは2次治療としてICIを受けた連続142例をレビューした。抗腫瘍効果はRECIST1.1を使用し8週目に評価した。治療前のがん悪液質は、治療前6カ月の5%以上の体重減少と定義した。サルコペニアは第三腰椎レベルの骨格筋量指数(mSMI)で、免疫療法前と開始後8週で評価した。mSMIの5%以上の低下はサルコペニア進行と判断した。エンドポイントは病勢制御率、無増悪生存期間および全生存期間であった。ロジスティック回帰モデルとCoxモデルには、PD-L1スコア、PS、遺伝子変異などICI効果に関連する項目を変数に入れ込んだ。多変量解析を行うとがん悪液質ーサルコペニア症候群は病勢制御率を落とし、生存期間の短縮と関係していた。がん悪液質のない患者は病勢制御率が良好(59.9%対41.1% オッズ比2.60)であり、がん悪液質のある患者は生存期間が短縮(ハザード比6.26)していた。またサルコペニアが進行した患者は無増悪生存期間(ハザード比2.45)および全生存期間(ハザード比3.87)が短縮していた。がん悪液質ーサルコペニア症候群はICI治療にネガティブな影響を与えるようである。

感想
今回の研究を一言でまとめると、サルコペニアの存在よりもICI治療中に進行することが、結果を悪くするということです。サルコペニアは本来骨格筋量の低下ですが、筋肉量のみならず身体能力低下も含めた指標としても意味合いもあり、さまざまな用いられ方をしている用語です。腫瘍領域では骨格筋量低下と同義ですが、測定方法がさらに複雑です。今回も用いられたL3レベルの骨格筋面積からの推定はよく用いられる方法ですが、それでも自動測定ソフトを使うのか、マニュアルでするのかなど測定法にも差があります。しかし今回のように「サルコペニアの変化量」がリスクであるとした場合、前後が同じ方法であれば測定方法は問わないことになり広く受け入れられる可能性があります。私もいくつか試してしてみましたが、筋肉量は電気的に測定(Inbodyなどの機械を使用)するのが最も簡単で、CTでのL3レベルの腸腰筋面積測定も簡単です。もっと言えば家庭用の体重計にも筋肉量を測定できるものがあり、研究には使えませんが非侵襲的かつ安価な簡易指標としては十分かも知れません。著者らはこのサルコペニアの進行は、免疫応答に関わる異化過程を反映しているとの仮説を考えています。困るのは、サルコペニアの進行はかなり強い予後不良因子であり、ICIの効果予測因子としての証明が難しいところにあります。研究の正確性も大切ですが、臨床家としては簡単に使える指標は歓迎したいところです。がん悪液質としての体重減少も、カルテを見ていると記載が様々です。これからアナモレリンも出てきますので、半年で何キロあるいは何%と定義を意識してしっかり記載していくことが重要になってくると思います。