緻密な高齢者評価・ケアでもがん患者のQOLはあまり改善せず

Impact of Geriatric Assessment and Management on Quality of Life, Unplanned Hospitalizations, Toxicity, and Survival for Older Adults With Cancer

Puts M et al.
J Clin Oncol. 2022 Dec 6:Epub ahead of print.
PMID:36473126.

Abs of abs.
ASCOでは化学療法を考えている高齢癌患者に対して、高齢者医学評価(GA)と管理(GAM)を推奨している。しかしこれがどのようにQOLに影響するのかを調べたランダム化比較試験は存在しない。5C試験は、2群並行1:1単盲検多施設共同無作為化比較試験で、6ヶ月間のGAMと通常治療との比較である。対象は、年齢70歳以上、固形癌、リンパ腫、骨髄腫と診断され、適応となる一次/二次化学療法、免疫療法、分子標的治療をされており、PS0-2の患者である。主要評価項目であるQOLは、EORTC-QOL質問票のグローバルヘルススケールを用いて測定し、intent-to-treatアプローチによるパターン混合モデルで解析した(6カ月および12カ月時点で)。副次評価項目には、身体機能、グレード3-5の毒性、医療資源利用、満足度、がん治療計画の変更、および生存期間とした。2018年3月から2020年3月までに、350名が登録された。平均年齢76歳で、40.3%が女性であった。54%が緩和目的の治療を開始した。81人(23.1%)の患者が死亡した。GAMはQOLを改善しなかった(グローバルQOLは4.4ポイント[0.9-8.0]で対照群が良好)。生存、治療計画の変更、予定外の入院/救急外来受診、治療毒性にも2群間で差はなかった。本研究でのGAMはQOLを改善しなかった。介入群の多くは、患者の希望により、治療開始時または治療開始後にGAを受けていた。最近完遂された臨床試験を考慮すると、可能であれば治療選択前にGAを実施する方が有益かもしれない。またCOVID-19が、参加者の一部のQOLと介入に影響を及ぼした可能性も考えられる。

感想
高齢の癌患者が増えるにつれて、薬物療法以外に何とかできないかと感じることがあります。今回はカナダで行われた研究です。要するに早めにいろいろ評価して、介入していった場合にQOLが上がるのか、あわよくば寿命が伸びるのかということを見た研究です。適切な早期緩和ケアが延命に寄与するという有名な論文[Temel JS NEJM2010 PMID:20818875]にも影響されているかも知れません。介入は認知機能スコアが落ちれば専門医に見せ、体重が落ちれば栄養指導をして、転倒リスクが上がれば作業療法を入れるというごく一般的な対応です。主な結果(Fig.3)では治療している人も、緩和ケア飲みになっている人も、もともとの差は縮まらず、広がりもせず介入は全く関係していないように見えます。さらに要約にもあるように、救急外来受診、緊急入院、生存期間にも差が見られませんでした。この原因として、治療決定をされてから高齢者評価がされている点、そもそもあまりフレイルではない高齢者が1/3を占めていた点などが挙げられています。緻密な介入が労力の割に思ったほど利益がないという面白くない結果ですが、私はこのような身も蓋もない結果の研究が割と好きです。医学の進歩とは言え、まだまだ自然に逆らうのは難しく、人間ができることは限られていると思い知らされるようです。緻密な対応は日本では好まれますが、労力に見合う成果が上がるところに注力するのも臨床医として大事な視点と考えます。