PS不良、臨床試験に適さない患者への免疫療法

First-line atezolizumab monotherapy versus single-agent chemotherapy in patients with non-small-cell lung cancer ineligible for treatment with a platinum-containing regimen (IPSOS): a phase 3,global, multicentre, open-label, randomised controlled study.

Lee SM et al.
Lancet. 2023 Aug5;402(10400)
PMID: 37423228.

Abs. of abs.
進行肺癌に対する免疫療法の進歩にもかかわらず、初回治療の主な臨床試験はPS0~1、年齢中央値65歳以下の患者の結果に限られる。今回はプラチナ製剤不適格な患者において、アテゾリズマブ単剤の初回治療としての有効性と安全性を単剤化学療法と比較することとした。試験は23ヵ国91施設で実施された第3相非盲検無作為化比較試験である。対象はⅢB/IV期の非小細胞肺癌で、PS2または3、あるいはPS0-1で70歳以上であるが合併症のためプラチナ製剤が不適格と判断した患者であった。患者を2:1に無作為割付けし、アテゾリズマブ1200mgを3週間毎投与群か、単剤化学療法(ビノレルビンまたはゲムシタビン)を3週間毎または4週間毎に投与する群に割り付けた。主要評価項目はITT集団での全生存期間であった。安全性解析は、安全性評価対象集団(アテゾリズマブまたは化学療法を投与されたすべての無作為化患者を含む)で実施された。試験には453人の患者が登録され、アテゾリズマブ群(n=302)または化学療法(n=151)群に無作為に割り付けられた。アテゾリズマブは化学療法と比較して全生存期間を改善し(生存期間中央値10.3ヶ月[9.4-11.9] vs 9.2ヶ月[5.9-11.2]、ハザード比0.78[0.63-0.97]、p=0.028)、2年生存率はアテゾリズマブ群で24%[19.3-29.4]、化学療法群で12%[6.7-18.0]であった。化学療法と比較してアテゾリズマブ群では患者報告による健康関連QOLの改善または安定をもたらし、グレード3、4の有害事象(300例中49例[16%]対147例中49例[33%])および治療関連死(3例[1%]対4例[3%])が少なかった。アテゾリズマブ単剤による1次治療は、単剤化学療法と比較して、全生存率の改善、2年生存率を倍にし、QOLの維持と安全性に寄与していた。今回の結果は、アテゾリズマブ単剤療法が、プラチナ製剤不適の進行非小細胞肺癌に対する1次治療の可能性を示唆する。

感想
少し前に発表された試験です。主に臨床試験に不適切なPS不良、高齢、合併症を持つ人に対して免疫療法単剤が有用であると示した試験です。どれくらい状態が良くないかというと年齢80歳以上が30%、PS2-3が80%超、男性が70%、喫煙者が70%弱、TC0かつIC0が52%、呼吸器循環器合併症が半分以上と、臨床試験不適格を適格としたような試験です。生存曲線を見ると、4ヶ月くらいで曲線がクロスし、1年生存率はアテゾリズマブ群で43.7%、化学療法群で38.6%でした。要約にあるように2年生存率はダブルスコアであり、その後もクロスすることはありません。サブグループで見ると、免疫療法があまり効果のない群は80歳以上(ハザード比0.97)、肝転移(0.94)あたりのようです。逆に免疫療法が良かったのは、PS0-1(ハザード比0.64)、現喫煙者(0.65)、ステージⅢB(0.69)でした。これまで言われている免疫療法の効果を期待しやすい臨床背景とよく似ています。毒性はグレードだけで比較すると実臨床での印象と大きく違うことがあるものの、アテゾリズマブ群でグレード3以上が16%、治療関連死1%と許容範囲内でした。日本での実臨床は初回化学療法としてのアテゾリズマブはTC3 and/or IC3が条件になるので一概には言えません。ペムブロリズマブはTPS≥1%で初回の適応があるので対象者は増えますが、PePS2試験[Middleton G LancetRespirMed2020 PMID:32199466] での単アームの検討にとどまります。現時点でこの試験を臨床に還元するとすれば、免疫療法が良さそうとされている因子(腫瘍量が少ない、PD-L1高発現、NLR低値、喫煙者など)を持ち、通常の化学療法が適さないが、BSCにするには惜しいと人に検討するということになります。何を持って「通常の化学療法に適さない」とするかは匙加減であり、明文化できません。