初回治療としてのセルぺルカチニブ

First-Line Selpercatinib or Chemotherapy and Pembrolizumab in RET Fusion-Positive NSCLC.

Zhou C et al.
N Engl J Med. 2023 Nov16;389(20):1839-1850.
PMID:37870973.

Abs of abs.
セルペルカチニブは高選択性、脳内移行するRET阻害薬で非ランダム化第1-2相試験において、RET融合遺伝子陽性の進行非小細胞肺癌に対する有効性が示されている。今回は無作為化第3相試験において、セルペルカチニブ初回投与の有効性と安全性を、プラチナ製剤ベースの化学療法にペムブロリズマブを併用するかしないは主治医選択とした対照群と比較した。主要評価項目は、ITT集団(対照群において主治医がペムブロリズマブによる治療を計画していた患者)および全ITT集団の両方において、中央判定での無増悪生存期間とした。セルペルカチニブ投与のクロスオーバーは、対照群において中央判定で増悪と確認された場合に認められた。ITT集団において計212例の患者がランダム化された。事前に計画された中間解析において、無増悪生存期間中央値はセルペルカチニブ群で24.8カ月[16.9~推定不能]、対照群で11.2カ月[8.8~16.8]であった(ハザード比0.46[0.31~0.70];P<0.001)。奏効率はセルペルカチニブ群84%[76~90]、対照群で65%[54~75]であった。中枢神経系に影響が出るまでとしたハザード比は0.28[0.12~0.68]であった。ITT集団全体(261例)における有効性は、ペムブロリズマブを投与するとした集団における結果と同じであった。有害事象は従来の報告と一致していた。進行したRET融合遺伝子陽性非小細胞肺癌において、セルペルカチニブ治療は、ペムブロリズマブ有無に関わらないプラチナ製剤の化学療法よりも無増悪生存期間を有意に延長した。

感想
久々の抗がん剤対分子標的治療です。ここまでやる必要があるかどうかはさておき、対照群に免疫療法を含まない抗がん剤だけを持ってくるのはもはや標準治療と言えません。そろそろ倫理的に問題となります。一方でEGFR/ALKなど、初めの方に見つかったドライバー変異では免疫チェックポイント阻害薬の効果が低いことは周知ですので、RETに関しても免疫チェックポイント阻害薬は入れないのが標準、と言い張ることもまだできます。一方でKRASなどは逆にICIが効きやすく、その他見解の一致を見ない変異もあります。そのような中で「主治医がペムブロリズマブを使用する意図がある」患者を最初の対象群に持ってきているのは、一見奇策に見えますがうまい方法と思います。結果としてペムブロリズマブ入れても入れなくてもほとんどPFSのハザード比は変わりませんでした。セルペルカチニブ単剤のPFSは24.8ヶ月であり、おそらく単剤の分子標的治療薬としては最長となります。奏効率も84%と申し分なく、ALK阻害薬に匹敵する効果かと思います。仮説は対照群PFSを9ヶ月と設定し、4カ月の上乗せつまり13ヶ月に改善するというもので、ハザード比は0.6923を見込んでいました。PFSは倍増しており良い方へ大きく見込み違いであったようです。OSはハザード比0.73、26ヶ月→35.6ヶ月への改善を見込んでおり有意水準は0.025と設定しています。クロスオーバーが多くこれを証明できるかどうかは非常に予測が困難です。これだけ効果の強い薬があると、順番よりもそれを使ったか使わなかったかだけで生存期間が決まってくるので、相対的に効果の少ない薬はあまり影響を及ぼさず、全生存期間では差が出ないのではないかと予想します。