脳転移に対するニボルマブの効果

Intracerebral efficacy and tolerance of nivolumab in non–small-cell lung cancer patients with brain metastases

Clément Gauvaina et al
Lung Cancer. 2018 Feb;116:62-66.
PMID: –

Abs of abs.
ニボルマブは非小細胞肺癌(NSCLC)に対して有効性が示されているが、有症状の脳転移(BM)を有する患者は、重要な臨床試験から除外されている。したがって、BMを有するNSCLC患者におけるニボルマブの脳内活性および安全性に関するデータは不十分である。今回はニボルマブで治療されたBMを有するNSCLC患者の後向き多施設共同研究を行った。主要エンドポイントはRECIST基準に従った脳病変の奏効率(IORR)である。副次エンドポイントには、脳病変の病勢制御率、脳および全体の無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)および薬剤耐性である。43人の患者を調査し、これには脳転移について局所療法された34人(79%)と、未処置16人(37%)が含まれていた。追跡期間中央値は5.7ヶ月[95%CI:2.7-8.4]であった。IORRと脳外の奏効率は、それぞれ9%[3-23%]と11%[4-26%]であった。脳病変の病勢制御率は51%[37-66%]であった。脳内および全身における無増悪生存期間中央値は、それぞれ3.9[2.8-11.1]および2.8[1.8-4.6]ヶ月であった。全生存期間の中央値は7.5ヶ月[5.6-未達]であった。5件の神経学的有害事象が発生しており、内訳はグレード4の一過性脳虚血発作、グレード3の神経脱落症状が含まれる。どちらもnivolumabの中断を必要としなかった。本研究から、ニボルマブの脳内活性は、脳外の有効性と類似しており、許容できる安全性プロファイルを有していた。脳内病変を有する患者へのニボルマブの位置づけを決めるには、前向き研究が必要である。

感想
後ろ向き研究のデータです。免疫チェックポイント阻害薬の使用に際し脳転移がある場合に、有症状であれば局所の放射線治療を先行するのが一般的かと思われます。そのようなケースを含め無症状、あるいはすでに治療されたもののも含めた効果、安全性などについてはよくわかっていません。非小細胞肺癌と悪性黒色腫での脳転移のペムブロリズマブの研究[Goldberg SB LancetOncol2016 PMID:27267608]では非小細胞肺癌で33%の奏効率でした。また少数例でニボルマブでも脳転移に効果があったとの報告がされています[Dudnik E LungCancer2016 PMID:27393516]。さらに放射線治療後はペムブロリズマブの効果が高い可能性が報告されています[Shaverdian N
LancetOncol2017 PMID:28551359]。またEGFR-TKIのように中枢神経系への奏効率が高ければ、有症状でも薬物療法が優先されるということもあり得るかもしれません。しかし今回の結果は脳内の奏効率9%、全身への奏効率11%とほぼ相違ない結果となりました。このうち脳への放射線治療歴があるものが8割あり、治療時期がニボルマブ投与の2カ月前以内であるものが16%であり、あまり多くありません。毒性については一過性のリンパ球浸潤などにより脳病変の増大と同じ有害事象が起こる懸念があります。本論文でも免疫反応による浮腫やhyper-progressive diseaseが、治療の有効性を相殺する可能性について言及しています。神経症状の増悪が見られた5例については、3例が有症状であり、2ヵ月以内に放射線治療をされた症例はなく、それ以前の照射歴がある症例のみでした。サイズについての言及はありません。Nivolumabの効果については安定4、進行1でした。従ってあまり効果がない場合に神経症状がみられる可能性があると思われます。
脳病変に対する免疫チェックポイント阻害薬の解釈が難しいのは、直前の放射線治療が奏効する場合があること、免疫チェックポイント阻害薬のpseudo-progressionの存在が絡んでいることに起因します。これまでの話を総合すると、免疫チェックポイント阻害薬は脳病変にも効果がみられるが、TKIほど大きいものではなく、従来の殺細胞性抗がん剤と同程度と考えることができます。つまり有症状では局所療法を先行しておき、過度の期待を持たないことが現時点の態度ではないかと思います。