腫瘍全体におけるマイクロサテライト不安定性とリンチ症候群

Microsatellite Instability Is Associated With the Presence of Lynch Syndrome Pan-Cancer.

Latham A et al.
J Clin Oncol. 2018 Oct 30:[Epub ahead of print]
PMID: 30376427

Abs of abs.
結腸直腸癌(CRC)および子宮内膜癌(EC)患者に対してリンチ症候群(LS)の素因がないかをスクリーニングするために、 マイクロサテライト不安定性(MSI)およびミスマッチ修復欠損(MMR-D)検査が伝統的に行われてきた。しかし最近のMSIが高い(MSI-H)腫瘍およびMMR-D腫瘍に対する免疫療法の成功により、すべての進行性固形腫瘍に対しMSIの検査を広げる必要性が示唆される。しかしLSが関係している腫瘍のうち、どの程度MSI-Hが占めているのかは不明である。今回はMSIの状態と固形腫瘍全体のLSの有病率を調査した。次世代シークエンスを使用して決定したMSI状態は、MSI-H、MSI-interminate、またはマイクロサテライト安定(MSS)として分類した。対応する生殖細胞DNAについて、LS関連ミスマッチ修復遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2、EPCAM)の遺伝子変異を解析した。さらにMSI-H/I腫瘍を有するLS患者において、MMR-Dの免疫染色での評価を行った。15,045人の患者(50人以上の癌種)のうち、LSはMSI-Hの16.3%(536人中32人)、MSIinterminateの1.9%(13人中699人)、マイクロサテライト安定の0.3%(37人中14,020人)に同定された(P<0.001)。MSI-H/I腫瘍を有するLS患者の50%(66人中33人)は、CRC/EC以外の腫瘍、つまり尿路上皮、前立腺、膵臓、副腎、小腸、肉腫、悪性中皮腫、悪性黒色腫、胃、胚細胞性腫瘍であった。これらの非CRC/EC腫瘍患者では、45%(33人中15人)が個人または家族歴に基づくLS遺伝子検査基準を満たさなかった。LS陽性MSI-H/I腫瘍の免疫染色は、利用可能な症例の98.2%(57人中56人)でMMR-Dを示した。今回の結果から、現在考えられているよりも広範囲にMSI-H/MMR-Dが存在することが予測される。血縁者の定期検査および予防を考える場合、癌種や家族の癌の有無に関係なく、MSI-H/MMR-D腫瘍患者にはLSの遺伝学的評価が望まれる。

感想
Lynch症候群(LS)の原因遺伝子としてミスマッチ修復遺伝子(MMR)があります。ミスマッチ修復に異常をきたすとマイクロサテライト不安定性(MSI)が起こります。くどいですがLSであればMSIは高いわけですが、逆にMSIが高い~中等度(安定していない)の集団に、LSがどれくらい含まれているのかは未知です。この問題は免疫療法の適否を検討するためMSIを調べた結果、どこまでLSに踏み込まなくてはならないのかというテーマに置き換えることができます。LSの診断は、まず大腸癌などの発症年齢、家族歴を参考にスクリーニングを行い、免疫染色でのミスマッチ修復蛋白発現を調べ、さらにMMR遺伝子検査により確定診断を行います。これまで遺伝的にMMR遺伝子異常がなくとも固形癌の組織にMSI-Hの状態は十分あり得ることが知られています。今回MSI-Hが全体の2.2%、MSI-Iが4.6%で93.3%はMSSでした。MSI-Hはトピックの一つですが、癌全体から見た場合に頻度が低い、つまり事前確率が低いこと意識しておくべきでしょう。
MSI-Hから見たLSの割合は全体で16.3%あり、LSの約6割は大腸直腸癌、子宮癌でした。Table2ではMSI-H~IにおけるLSの割合が一覧できます。それによると大腸直腸癌が19%、小腸癌が11.8%、胃癌が15.4%、膀胱・尿路癌が37.5%、副腎癌が10.5%、膵癌が14.7%でした。逆に0%であったのは卵巣癌、肺癌、腎癌、乳癌でした。これらは仮にMSIが高くともLSである心配が少ないと言えるでしょう。私は肺癌を中心に診療していますのでMSIについてはあまり心配せずともよいかもしれませんが、他の生殖細胞変異がいつ入ってくるかはわかりません。他領域にも少しは関心を持っていくことが求められます。