オシメルチニブ心毒性のリスク因子

The Risk and Reversibility of Osimertinib-Related Cardiotoxicity in a Real-World Population.

Bak M et al.
J Thorac Oncol.2025 Feb;20(2):167-176.
PMID:39395664.

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第3世代EGFR-TKIのオシメルチニブは、進行非小細胞肺癌治療として大きな生存利益があることがわかっている。一方実臨床における心毒性の懸念も生じている。本研究では、オシメルチニブ関連の心毒性の発生率、リスク因子、可逆性を調査することを目的とした。2016年5月から2023年4月までの間に、2つのがんセンターでオシメルチニブで治療された1126名を分析した。オシメルチニブ関連の心毒性は、オシメルチニブ関連心機能障害(ORCD)、新たに発症した不整脈、心臓死とした。追跡期間は20.6ヶ月(10.8-35.2)であった。オシメルチニブは中央値で12.4ヶ月間投与された。オシメルチニブ関連の心毒性の発生率は4.7%であった。高齢(調整ハザード比1.07[1.04-1.09]、p<0.001)、心不全既往あり(3.35 [1.67-9.64]、p=0.025)、心房細動(3.42 [1.27-9.22]、p=0.015)、ベースラインの低左室ストレイン(0.87 [0.79-0.96]、p=0.005)が心毒性の発症と独立して関連していた。ORCDの回復率は82.4%であり、投薬を中止した患者と中止しなかった患者の間で差はなかった。実臨床での、オシメルチニブ関連の心毒性の発生率は4.7%であり、介入を必要とするORCDは3.4%であり、これは以前の報告よりも高い値であった。オシメルチニブの長期投与と心毒性に関連する死亡率の増加を考慮すると、特に高齢者や心不全の既往がある患者、心房細動、ベースラインの左室ストレイン低下が見られる患者に対して慎重なモニタリングが重要と考えられる。

感想
オシメルチニブは、第1、2世代のTKIとは副作用の傾向がやや異なります。心機能低下やQT延長などがその代表です。これまでにもいくつかの報告がありますが、全体的に見ると発症率は数%程度であり、高齢者に多く見られる傾向があります。また、休薬によってほとんどの場合は回復するとされています。今回の論文は、韓国からの大規模な臨床データに基づいた報告であり、日常診療において非常に参考になります。
従来の左室機能評価には駆出率(EF)が用いられてきましたが、近年ではより精度の高い指標としてGLS(Global Longitudinal Strain:長軸方向ストレイン)が注目されています。左室ストレインという言葉は、GLSを含む心筋の歪みを表す総称であり、本論文ではGLSを指しています。一般的に、GLSの基準値は-20%以上とされ、数値が小さいほど心筋の収縮機能が低下していることを示します。
オシメルチニブによる心毒性の定義は様々ですが、本論文では、ベースラインと比較してLVEFが10%以上低下し、かつLVEFが50%未満になった状態を左室機能不全と定義しています。
最も重要な結果は、Fig.2に示されています。ベースラインで70歳以上、かつGLSが-20%以上の患者では、心毒性のハザード比が急激に上昇することが示されています。その他には心不全の既往や心房細動もリスク因子として挙げられています。
今回の結果から、日常臨床で活かせることとして、オシメルチニブ投与前に心エコー検査を必ず行い、可能であればGLSを測定しておくことが挙げられます。また、リスク因子がある場合には、定期的な心エコー検査を実施することも重要です。