自己申告での喫煙・非喫煙は遺伝子レベルでは少し乖離

Tobacco Smoking-Related Mutational Signatures in Classifying Smoking-Associated and Nonsmoking-Associated NSCLC.

Ernst SM et al.
J Thorac Oncol. 2023 Apr;18(4):487-498. doi:
PMID:36528243.

Abs of abs.
患者申告による喫煙歴は、非小細胞肺癌研究における層別化因子として使用される。しかし、この分類は腫瘍の変異過程を完全に反映するわけではない。現在の次世代シークエンスでは、一塩基シグネチャー4や挿入欠損ベースのシグネチャー3など、タバコ喫煙に関連する変異シグネチャーを特定できる。このことは、個々のゲノム腫瘍特性に基づいて喫煙・非喫煙関連肺癌の分類を再定義し、肺癌の間違った認識を改める可能性がある。進行非小細胞肺癌の3つの前向きコホート(N=316)から全ゲノムシークエンスと背景を入手した。一塩基シグネチャー4とインデルベースシグネチャー3の相対的寄与度と絶対数を、年齢関連シグネチャーの相対的寄与度とを組み合わせた。これらを喫煙(高喫煙)と非喫煙(低喫煙)のクラスターに分割した。高喫煙クラスター(n=169)と低喫煙クラスター(n=147)は、TMB、シグネチャーの寄与度、変異の分布において大きく違っていた。このシグネチャーに基づく分類は、喫煙歴とかなり重なる部分があった。しかし、喫煙歴のある患者の26%が低喫煙クラスターに含まれ、そのうち52%にEGFR/ALK/RET/ROS1変異が見られた。4%の喫煙歴のない患者が高喫煙クラスターに含まれた。これらの不一致サンプルは、それぞれのクラスターの残りの部分と同様のゲノムを持っていた。進行非小細胞肺癌のかなりのサブセットが、喫煙歴よりも喫煙関連の変異シグネチャーに基づくと、喫煙関連と非喫煙関連で違う分類をされてしまう。このシグネチャーに基づく分類は、ゲノム全体基づきより正確に分類できるため、臨床研究において層別化因子として考慮した方がよいと考えられる。

感想
確かにこの論文の主張通り、患者申告の喫煙歴には問題を含んでいます。職場家庭における間接喫煙、隠れ喫煙、過少申告などきりがありません。また喫煙行為そのものよりも、その結果起こった遺伝子異常こそが喫煙の害のはずです。とすれば遺伝子異常を見て分類するほうがうまく機能するはずです。将来的にはゲノム上の喫煙者という分類ができるかもしれません。
さて結果ですが、喫煙者の1/4がゲノム上は低喫煙者のカテゴリーに入るということでした。これを高いとみるか低いとみるかで評価は変わります。自己申告が簡単、コスト無しであり、まだ取って変わられるほどではないと考えます。それでも、EGFR/ALKは低喫煙から多く出ること、KRASは逆であることから再生検の指標になる可能性はあるでしょう。ただ喫煙の有無に関わらずTKIもPD-L1阻害薬も使うので、ドライバー変異が出ている場合、結果に影響を及ぼす可能性は低いと思います。遺伝子で見るとなにか高度な感じがしますが、結局外から見ていることに少し上乗せするだけということは多いです。ただ漠然と使われながら指標として有用、例えばPSや体重減少といったものも、今後遺伝子レベルでの異常に言い換えられる日が来ると思います。