SBRT後の遠隔転移の予測モデル

Prediction of Distant Metastases After Stereotactic Body Radiation Therapy for Early Stage NSCLC: Development and External Validation of a Multi-Institutional Model.

Gao SJ et al.
J Thorac Oncol. 2023 Mar;18(3):339-349
PMID:36396062.

Abs of abs.
遠隔転移(DM)は、定位放射線治療(SBRT)を受けた早期非小細胞肺癌患者の死亡率を大きく左右するが、患者個人のリスクを予測することは困難である。今回はこの集団におけるDMの個別リスクを予測するモデルを検討した。2006年から2015年にSBRTを受けたcT1-3N0M0の非小細胞肺癌患者1280人の多施設データベースを用いて、モデル作成と内部検証を行った。1年DMリスクを予測するためにFine-Gray(FG)回帰モデルを構築、ランダムフォレストモデルと比較した。性能の高い方のモデルを、別施設の130人の患者からなる外部データセットで検証した。判別能は、時間依存の曲線下面積(AUC)を用いて評価した。調整は図形上とBrierスコアで行った。FGモデルは,テストセットにおいて,AUCが0.71[0.57-0.86]であった。一方ランダムフォレストはAUCが0.69[0.63-0.85]となった。その結果からFGモデルを採択し外部検証を行うと、FGモデルでのAUCは0.70[0.57-0.83]であり、良好なキャリブレーション(Brierスコア:0.08)を示した。このモデルは、内部テストにおいて1年DM率を20.0%[15人中3人]対2.9%[241人中7人]、p=0.001であり、外部検証で21.4%[15人中3人]対7.8%[116人中9人]、p=0.095で予測し良好な結果であった。なおこのモデルのノモグラムとオンラインアプリケーションが入手可能である。今回SBRTを受けた非小細胞肺癌患者のDMリスクを予測する実地モデルを開発し検証した。これは全身治療を受ける患者を選択する際に役立つであろう。

感想
肺癌患者の高齢化とともに年々SBRTを受ける患者が増えています。検診というより循環器疾患あるいは消化器癌などで手術されフォロー中の例が多いように感じます。無症状ですが臓器機能が悪い、あるいは重度のCOPDなどで縮小手術もリスクが高い、あるいは術後酸素療法が必要になるのを嫌がるなどさまざまな背景があります。これまで当ブログでもSBRT vs (縮小)手術といった話題を何回か取り上げましたが、SBRTに特有な問題も存在します。それは、そもそも何らかの機能低下を抱えているわけで、肺癌は制御できても併存疾患で亡くなる可能性が無視できない、つまり競合リスクがあることです。今回のFine-Gray回帰モデルとは、競合リスクを考慮した解析方法で、Rでは”riskRegression”パッケージで実施可能です。ランダムフォレストは、ざっくり言えばデータからランダムサンプリングしデータセットを多く生成、そのランダムデータセットで決定木分析し、その結果を再度統合するという方法で、全データセットで決定木解析するより精度が上がると言われています。今回は”randomForestSRC”というパッケージを使用していますが、ネット上では”randomForest”を使った解説も多くなされています。
さて肝心の1年後の遠隔転移発生に関わるのは、腫瘍径、SUVmax、年齢、PS、先行する肺癌既往、組織型でした。ノモグラムもありますが、計算用のページが公開されています。試しに入れてみると径2㎝以下、SUV=6、65歳。PS1、肺癌既往なし、腺癌の場合、1年後の遠隔転移累積発生率は10%と計算されました。実地上の問題点は考察でも述べられていますが、組織診断がないまま肺癌としてSBRTされる例も多いことです。今回使用したデータセットでも1/4ほどがそうであったようで、モデルの精度に影響を与えた可能性を否定できません。
今年度もこれでお終いです。異動など慌ただしい時期になりました。呼吸器内科医にとっては呼吸器総会が春を感じるイベントになります。今年はコロナ前に戻って現地参加してみようかと思っています。