シンプルな栄養指標と免疫治療の奏効予測

Pretreatment prognostic nutritional index as a novel biomarker in non-small cell lung cancer patients treated with immune checkpoint inhibitors.

Shoji F et al.
Lung Cancer. 2019 Aug 14;136:45-51.
PMID: 31437663

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非小細胞肺癌の治療戦略として免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の役割は確立しているが、この治療に反応するかどうかのマーカーは定まっていない。Prognostic Nutrition Index(PNI)は免疫と栄養状態に関する指標として使われており、多くの悪性疾患で予後因子となっている。この指標のICIへの奏効あるいは予後に関するバイオマーカーとしての評価は定まっていない。今回は進行または再発非小細胞肺癌でICIで治療された非小細胞肺癌を対象に、治療前PNIが奏効予測となるか、また生命予後の指標となるかどうかを調査した。2015-2019まで102人の非小細胞肺癌連続症例を対象とした。治療前のPNIレベルを測定し、単変量および多変量コックス回帰分析を用いて無増悪生存期間、全生存期間について評価した。PNIレベルは有意にICI治療における奏効と関連した(奏効率P=0.0131、病勢制御率P=0.0002)、無増悪生存期間(P=0.0013)、全生存期間(P=0.0053)。無増悪生存期間または全生存期間にはPNI、CRP、NLRが相関し、無増悪生存期間に関してはNLRとPNIが関係しており、それぞれNLR:相対リスク(注:ハザード比と思われる)1.655[1.012-2.743], P=0.0449, PNI:相対リスク(注:ハザード比と思われる)=1.704[1.039-2.828], P=0.0346であった。さらにPNIは全生存期間に有意な傾向が見られた(相対リスク (注:ハザード比と思われる) 1.606[0.952-2.745],P=0.0761)。本検討から治療前PNIはICI治療に対するシンプルかつ新規の予測マーカーとしての可能性がある。これらはICI治療における生存利益を得られる患者群を判別できる一助となりえる。

感想
今回の中心となるPNIとは、ICI治療開始7日以内の「10×アルブミン(g/dL) + 0.005×末梢血リンパ球数(/㎜2)」の値のことで、そもそもは消化器手術で提唱された免疫栄養指標とのことです[Onodera T 日本外科学会雑誌1984 PMID:6438478]。 消化器外科の分野では有用性が確立しているようで、文献も多くヒットします。
肺癌についてはあまり多くの情報がありませんが、小細胞肺癌も含めた肺癌でのメタアナリシスがあります。[Li D J ThoracDis2018 PMID: 30416777]。この報告に含められた研究でカットオフ値として46.24-52.48が採用されています。またこのPNIと関連する因子として性別、組織型があり、喫煙には関係しなかったとしています。今回のカットオフ値は45.5で、これは同じデータセットからROC曲線を使って算出しています。本来、中央値もしくは既報からカットオフ値は採用すべきであり、一番都合の良いところを持ってくるのは禁じ手のようにも思えます。しかしこの値でほぼ半数に分かれるのと、いくつか検索した類似研究でも同様の手法が使われているので、外科分野では許容されているのかもしれません。NLRでは同様の手法でカットオフ値3.88、CRPでは0.51が採用されています。NLRは既報を参考に3-5の値を採用すべきですし、CRPは施設正常上限値を使うのが適切なように思えます。またCoX比例ハザードモデルを使用したのに「相対リスク比」(ハザード比の間違いでしょう)とあったり少し解析も気になります。それでもなおPNIというシンプルな指標がICIの奏効を予測できるかも知れないというのは非常に魅力的です。PNIの式を見るとアルブミンの影響を強く受けています。もともと外科手術での指標であり、もう少しリンパ球の関与を増やしてmodifyすれば面白いかもしれません。また各種栄養指標については、この資料がわかりやすかったです。NLRでは治療前のデータも大事ですが、変化にも注目されています。すなわち奏効してくる症例は、投与後にNLRが低下してくるようで、PNIについても同様の検討の余地があるかもしれません。著者らはPNIとNLRとCRPのROC曲線の感度・特異度の比較もしていますが、PNIとNLRの差はあまりないようです。蛇足ですが、この両者を多変量モデルに組み込むことは交絡の恐れが多分にあり、専門家による検証が必要と思います。その証拠に単変量解析のP値と多変量解析のP値が大きく動いています(適正なモデルでは大きく変動しないと言われます)。
このように栄養指標から確実に影響を受ける一方、PD-L1、TMBなど腫瘍因子からも影響を受けていると思われます。私はこれらを複合した指標で、なるべく簡単なものの出現を期待しています。