Impact of Baseline Steroids on Efficacy of Programmed Cell Death-1 and Programmed Death-Ligand 1 Blockade in Patients With Non-Small-Cell Lung Cancer.
Arbour KC et al.
J Clin Oncol. 2018 Aug 20: [Epub ahead of print]
PMID: 30125216
Abs of abs.
PD-(L)1阻害剤での治療は肺癌における現在の標準治療である。コルチコステロイドの免疫抑制効果は、PD-(L)1阻害の有効性を低下させる可能性がある。免疫関連の有害事象治療のためにコルチコステロイドを加えても有効性に影響ないようである。しかし治療開始時のベースラインにおけるコルチコステロイドの影響は不明である。臨床試験では、通常コルチコステロイド服用中の患者は除外されている。今回は実地データを使用して治療開始時のコルチコステロイドの効果を調査した。進行非小細胞肺癌でPD-(L)1阻害薬が初めてである患者を同定した。2施設(Memorial Sloan Kettering Cancer CenterおよびGustave Roussy Cancer Center)で、PD-(L)1阻害薬単剤で治療された患者が対象となった。治療開始時点でコルチコステロイド使用しているものを薬歴から同定した。Cox比例ハザード回帰モデルとロジスティック回帰を用いて多変量解析を行った。PD-(L)1阻害薬単剤で治療された640人のうち90%(14%)において、開始時にプレドニゾン換算で10mg/日以上のコルチコステロイドを投与されていた。コルチコステロイドの投与理由は、呼吸困難(33%)、疲労(21%)、脳転移(19%)であった。それぞれ独立したコホートで、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(n=455)およびustave Roussy Cancer Center(n=185)において、ベースラインでのコルチコステロイド投与は、PD-(L)1阻害薬での奏効率の低下、無増悪生存期間、全生存期間短縮と関係していた。プールした集団での多変量解析では、喫煙歴、PS、および脳転移の有無を調整後でも、ベースラインでのコルチコステロイドは無増悪生存期間の短縮(ハザード比1.31[1.03-1.67]、P=0.03)、全生存期間短縮(ハザード比1.66[1.28-2.16]、P<0.001)と有意な関連が見られた。本研究から、非小細胞肺癌においてPD-(L)1阻害薬で治療する際に、プレドニゾン換算で10mg以上のコルチコステロイドをベースラインで使用していると、生存期間短縮につながることが知られた。PD-(L)1阻害薬開始時において、コルチコステロイドは慎重に使用するように推奨される。
感想
免疫チェックポイント阻害薬については様々な奏効因子が候補となっています。免疫が絡むということでステロイドの使用の及ぼす影響も様々に議論されています。これまで主にメラノーマでのデータから、免疫治療を入れた後に免疫関連有害事象のコントロールにステロイドを使用しても、効果は減弱しないであろう[Horvat TZ JCO2015 PMID:26282644]と言われています。今回は、ベースラインでのステロイド使用は抗腫瘍効果を減弱させることが示唆される重要な結果です。2カ所のがんセンターで集められたデータを見ると、通常は合算したデータだけが示されますが、今回は施設ごとに示されており驚くほどの一致を見せています。Fig1を見るとプレドニソン<10㎎では奏効率が20%弱、10㎎以上では10%未満と明らかな差が見られます。次いでPFS,OSともステロイド投与群が明らかに下回り2施設で同じ傾向を示しています。ステロイドが入っていること自体、何らかの合併症や症状あるいは脳浮腫予防のわけですから背景が異なります。しかしそれを多変量解析で調整してもステロイドが予後不良因子として残ることは注目すべき現象です。試しに私の施設のデータを見返してみましたが、ステロイドが投与されている場合、奏効率は極端に悪くなっていました。別の報告ですが、ベースラインでのステロイド使用はPFSが悪く、アルブミン、喫煙状況で調整しても予後不良因子として残ったとのデータが出ています[Dumenil C PLoS One2018 PMID:29684049]。
逆にステロイドが入っていても効果があった患者にどのような背景が見られるかにも興味が持たれます。TableA2に6人がピックアップされ、全例PS1、年齢47-76歳、ステロイドは10-20㎎、男性4、女性2、喫煙者4、非喫煙者2とこれと言った大きな特徴が見られません。少なくともPS不良でステロイド高用量(20㎎を超える)で奏効を得るのはかなり難しいと言えるでしょう。これらの方のPD-L1染色やmutation burdenがどうであったのか情報はありませんが、腫瘍の方により効果の出やすい因子が強くあれば、多少の不利な状況がカバーされる可能性もあるかも知れません。また今後免疫チェックポイント阻害薬と殺細胞性抗がん剤の併用で、制吐目的で使われるステロイドはどうなのかという問題に直面します。著者らは一時的な使用については問題ないであろうと述べています。今後ステロイドを大量に使うレジメンとそうでないレジメンとの比較が必要な場面も出てくる可能性があります。
今回の論文からは少なくとも有害事象を恐れるあまり、予防的にステロイドを使って免疫チェックポイント阻害薬を投与するのは得策ではないこと、止むを得ない事情で使うとしても10㎎以下が望ましいことが示唆されています。後ろ向き研究ではありますが、日常臨床に非常に役立つ重要な結果であると思います。