Conservative versus Interventional Treatment for Spontaneous Pneumothorax.
Brown SGA et al.
N Engl J Med. 2020 Jan 30;382(5):405-415.
PMID:31995686
Abs of abs.
中等度から高度自然気胸で、合併症のないものに対し、処置の代替としての保存的治療について詳しいことはわかっていない。今回はオープンラベル、他施設、非劣勢試験として14歳から50歳の患者で初回、片側の中等度から高度自然気胸の患者を登録した。患者は処置群か保存的に経過観察される群とにランダム化され12ヶ月経過観察された。プライマリーエンドポイントは8週以内の再膨張が得られるかである。316人がランダム化され154人が処置群、162人が保存的治療群に割り付けられた。保存的治療群のうち25人(15.4%)が、事前に定められたプロトコールにより処置を追加され、137人(84.6%)は処置されなかった。途中で処置群23人、保存的治療群37人のデータが取れなくなり、それらを除く完全追跡集団の解析により、処置群の98.5%、保存的治療群の94.4%に再膨張が得られた(リスク差-4.1%[-8.6から0.5; P=0.02]);非劣勢マージン下限は-9%。56日後の欠損データをすべて治療失敗として補完を行った感度分析(介入群では129/138人(93.5%)、保守的管理群では118/143(82.5%)で再膨張として)において、リスク差は-11%[-18.4から-3.5]となり、事前設定された非劣勢マージンから外れていた。保存的治療において重篤な有害事象または気胸再発も少なくなった。本研究においておそらく欠損データによりプライマリーエンドポイントが強固に有意なものとはならなかったが、処置介入に比べて保存的治療が、有害事象を少なくし劣っているわけではないという緩やかなエビデンスになった。
感想
今回の研究は肺癌とは関係ありませんが、シンプルにして常識に挑戦する素晴らしい研究なので取り上げました。膨大な費用を掛けわずかな差を証明する研究が多い中、この単純な研究論文をアクセプトしたのは、さすがNEJMで目が肥えていると感じます。
今回は軽度の気胸の比較ではありません。補遺をみると、だれでも即ドレナージと言うであろう、中等度以上(虚脱率32%以上)の気胸が登録されていることが分かります。これまで気胸腔が中等度以上の場合、入院させ即ドレナージをするのがごく当たり前に行われてきました。またスペースがわずかでも入院させ、酸素投与をしつつ経過観察というのが一般的でした。背景には緊張性気胸になるのが怖い、虚脱したままで治らなくなる懸念などがあります。しかし患者側からすればドレナージは苦痛であるし、大した症状もなく入院というのも苦痛なわけです。そこまで必要かな?と誰もが思いつつ、でも逆らえなかった慣習に一石を投じたわけです。むろん保存的治療といっても4時間以上は経過観察をして拡大や症状、バイタルサインの悪化がないことを確認してからであり、全例処置不要というわけではありません。十分注意が必要なのは、72時間後以降にドレナージされた患者が保存的治療群で9.3%あることでも伺い知れます。
各群を見ていきます。再膨張が得られるまでの日数の中央値は、処置群で16日、保存的治療群で30日、再膨張率は98.4%対94.6%でした。症状が改善するまでの時間は15.5日対14日でした。さらに12ヶ月以内の再発は、処置群で16.8%、保存的治療群で8.8%で再発までの期間も保存的治療群が長いという結果になりました。これについては急速な再膨張による臓側胸膜損傷の可能性を指摘しています。当然のことながら休職期間も短く良いことづくめに見えます。問題は欠損データですが、悪くなって経過が負えなくなったというわけではないと思います。登録は14歳から50歳であり、むしろ症状が無くなってフォローアップに行かなくなった人の方が多いと予想します。したがってすべて治療失敗に入れて考えるのは悲観的過ぎで、欠損データのままの結果で受け止めればよいと考えます。エディトリアルでは若く中等度以上の自然気胸に対して、保存的治療という新しい治療選択肢を提供する準備をしなければならないと締めくくっています。