抗生物質と免疫チェックポイント阻害薬、まだまだ危うい

Impact of Antibiotic Exposure Before Immune Checkpoint Inhibitor Treatment on Overall Survival in Older Adults With Cancer: A Population-Based Study.

Eng L
J Clin Oncol. 2023 Jun 10;41(17):3122-3134.
PMID:36827626.

Abs of abs.
免疫チェックポイント阻害薬前の抗生物質曝露は、腸内細菌叢の変化を通じて転帰に悪影響を及ぼす可能性があるが、大規模な調査は行われていない。今回はICI開始前の抗生物質曝露が全生存期間に及ぼす影響を評価するため、後ろ向きコホート研究を実施した。2012年6月から2018年10月の間にICIによる治療を開始した65歳以上の患者について調査した。このコホートを他の医療データベースと紐付けし共変量となる因子とICI治療の1年前と60日前の抗生物質処方に関するデータを入手した。ICIを受けた2737例(肺癌53%、悪性黒色腫34%)のうち、ICI治療の1年前と60日前に抗生物質を投与された患者は59%と19%であった。OS中央値は306日であった。ICI前1年以内の抗生物質曝露はOSの悪化と関連していた(ハザード比1.12[1.12-1.23];P=0.03)。抗生物質別の解析では、ICI前1年以内(ハザード比1.26[1.13-1.40];P<0.001)または60日以内のフルオロキノロンへの曝露(ハザード比1.20[0.99-1.45];P=0.06)はOSの悪化と関連し、1年間の総被曝週数(1週当たりハザード比1.07[1.03-1.11];P<0.001)および60日(1週当たりハザード比1.12[1.03-1.23];P=0.01)における用量依存効果が認められた。今回の対象集団において、ICI治療前の抗生物質、特にフルオロキノロン系抗菌薬への曝露は、高齢者のOS悪化と関連した。免疫活性を高めるために腸内細菌叢を変化させるといった介入は、抗生物質への曝露歴のあるICIを受ける患者の予後改善に寄与する可能性がある。

感想
免疫チェックポイント阻害薬の奏効因子はさまざまに言われてきました。性別、リンパ球好中球比、栄養状態、ステロイド使用、喫煙など、自前で分析してもそれなりにデータは出るので一面は反映しているものの十分ではありません。今回の腸内細菌叢も早くから注目され、山のような後ろ向き研究がありますが結果は一致しません。今回は規模が大きいですし天下のJCOですから注目度も高いですが、いくつか疑問点もあります。解析の中心は多変量解析ですが、モデルに投入した因子として、性、年齢、BMI、前年の入院歴、自己免疫疾患、施設、JohnHopskinsスコアです、このスコアは年齢、性別、罹患疾患などで健康状態をスコア化するものです。少なくとも年齢、性別が内包されているこのスコアを入れた意味がよくわかりません(因子の重複)。また抗生剤を投与されたということはそもそもの健康状態に差があるのでは?という疑問に対して、このスコアと入院歴で調整したと書いてありますが不十分だと思います。さらに肺癌とメラノーマを一緒にしていますが、これも背景が大きく異なるように感じます。イピリムマブは13%に使用されており、他のICIと一括して扱われているのも気になるところです。
それらを排して今回のデータの面白いところは抗生物質別に見たところです。ペニシリン系、セフェム系では大きな差が見られないのにキノロン系にのみ差が見られた点が興味深いです。ご存じのように薬価の面で大きく差があり、カナダでのキノロンの使用はどの状態に適応されているのでしょうか。意地悪な見方として、ペニシリン系とは背景が全く違うのではないかと想像します。一方好意的な解釈として、キノロン系は腸内細菌叢に与える影響が大きいとも考えられます。しかし同じ解析を殺細胞性抗がん剤あるいは分子標的治療についてしてみたらどうなのだろうかとも思えます。統計的な調整には限界があることをよくわかっておく必要があります。原因はともかく、私たちにできることはキノロン系が必要となる状態の患者にはICIの効果が低いと認識することでしょうか。過去にも同じようなことを書いています。