Incidental Anterior Mediastinal Nodular Lesions on Chest CT in Asymptomatic Subjects.
Yoon SH et al.
J Thorac Oncol. 2017 Dec 9. [Epub ahead of print]
PMID: 29233791
Abs of abs.
胸部CT検査で、無症状の前縦隔病変が偶然発見されることがある。今回はこの有病率と特徴を調べた。2006-2013年の健康診断の一環として、低線量胸部CTを受けた連続した被験者56358人(平均年齢52.4±10.5歳、男女:35306:21052)を対象とした。前縦隔病変はCT検査で存在確認され、その後の確定診断、およびCT間隔について検討した。胸腺上皮性腫瘍の標準化された有病率は、2014年の韓国での統計を基に算出された。56358人のうち413人(0.73%[0.66-0.80])が前縦隔病変を有していた。有病率は年齢(p <0.001)順に、また悪性疾患既往歴(p=0.005)の有無で増加した。病変のうち、85.2%が2cm未満であり、61.3%が円形であり、80.2%が20HUより高いCT値を有していた。組織型を確認した51例中39例(76.9%)が良性であり、12例(23.1%)が悪性であった。この胸腺上皮性腫瘍の標準化された有病率は2.04[1.01-3.42]であった。切除された11個の胸腺上皮性腫瘍のうち、5個は癌であり、10個はIまたはII期であり、すべて再発なく完全切除されていた。経過観察した組織未確認の237例のうち、82.2%が病勢安定、8.9%が増大しており、8.9%は縮小していた。本検討から、偶然発見された前縦隔の結節性病変の有病率は0.73%であった。ほとんどの病変はCT上、胸腺上皮性腫瘍と区別がつかないものの、かなりの部分が良性であると思われた。このような胸腺上皮性腫瘍は、臨床症状で発見された腫瘍よりも多く、早期ステージであり、良好な転帰を示していた。
感想
先行研究によると、CTで偶然発見される前縦隔腫瘍はELCAP研究で41/9263=0.45%[Henschke CI Radiology2006 PMID:16641357]でした。その報告では3㎝以上の5例を切除し、胸腺癌1、非浸潤型胸腺腫4であったとされています。またフラミングハム心臓研究[Araki T EurJRadiolOpen2015 PMID:25705709 ]では、当該罹患率は23/2571=0.89%とされ、組織診断はないものの30㎜以上のものも22%ありました。今回の罹患率と比例するのは年齢でした。例を挙げると54歳以下では0.5%前後ですが、75歳以上になると1.44%とほぼ3倍になります。また悪性腫瘍歴の有無も相関しており、既往ありで2.06%、なしで0.72%となっていました。肺癌と違って喫煙と性別との関連はあまり認められませんでした。大きさの分布を見たものとして、0.5㎜から0.5㎜刻みでプロットされた図があります。それを見ると、1.0-1.5mm未満の階級を最大として、2/3が15㎜未満、30㎜以上は5%程度となっていました。形態は境界明瞭が97.8%、円形が61.3%であり良性に見える形態が多いことを示しています。CT値の分布は特定の傾向がなく60-70HUくらいまでは一定のように見えます。これは脂肪~軟部陰影と同程度であり、で明らかに水あるいは石灰化といった良性を確実に支持する病変が少ないため、診断が難しいことを示しています。またフォローアップされた237/361の病変は、8.9%(21/237)にサイズ増大が認められ、増大までの時間の中央値は44.5ヶ月[range3.2-88.3]で、増大の中央値はわずか3㎜でした。ただその後もフォローアップが継続された18例について14例は大きさが安定していたとのことです。
私の知る限り、このように偶然発見された前縦隔腫瘍のフォローアップのガイドラインはないようです。辺縁不整、周囲への浸潤といった悪性を示唆する所見がなければ、悪性の割合が低いこと、増大速度が遅いことから半年から1年のフォローアップで、しかし長くフォローアップするのが適当と思われます。つまり「細く長く」が基本となります。これについては前のRadiology誌の結論では、侵襲的検査を含めたアプローチは”conservative”であるべきと書かれていますが、その通りだと感じます。