オランザピンの食欲改善と体重増加に対する作用

Randomized Double-Blind Placebo-Controlled Study of Olanzapine for Chemotherapy-Related Anorexia in Patients With Locally Advanced or Metastatic Gastric, Hepatopancreaticobiliary, and Lung Cancer.

Sandhya LJ et al.
Clin Oncol. 2023 May 10;41(14):2617-2627.
PMID:36977285.

Abs of abs.
食欲不振は進行癌の30~80%にみられ、化学療法により悪化する可能性がある。本試験では、化学療法中におけるオランザピンの食欲刺激効果と体重増加効果について検証した。未治療の局所進行/転移性の胃癌、肝胆膵癌、肺癌患者の化学療法中ににオランザピン(2.5mgを1日1回、12週間)投与、またはプラセボ投与にランダムに割り付けた。両群とも標準的な栄養評価と食事指導を受けている。主要評価項目は、5%以上の体重増加が見られた割合および食欲改善であった。副次項目として、栄養状態の変化、QOL、化学療法の毒性とした。年齢中央値55歳(18~78歳)の患者124人(オランザピン:63人、プラセボ:61人)が登録され、うち112人(オランザピン:58人、プラセボ:54人)が評価可能であった。大多数(n=99、80%)は転移癌であった(胃[n=68、55%>肺[n=43、35%]>肝胆膵[n=13、10%])。オランザピン群では、5%以上の体重増加(58人中35人[60%]、54人中5人[9%]、P<0.001)、VASによる食欲改善(58人中25人[43%]、54人中7人[13%]、P<0.001)FAACT ACSによる食欲改善(スコア≧37:58人中13人[22%]、54人中2人[4%]、P=0.004)が多かった。またオランザピン投与群では、QOL、栄養状態が良好で、化学療法による毒性も少なかった。オランザピンに起因する副作用は少なかった。低用量のオランザピン投与は、新規に診断され化学療法中の患者の食欲と体重増加を有意に改善する。これは簡単で安価かつ忍容性の高い介入手段である。

感想
インドで行われた研究です。オランザピン薬価は2.5㎎錠がジェネリックで10円程度です。用途は違いますが、悪液質に対するエドルミズが50㎎で250円くらいですので、化学療法による食欲不振なのか悪液質によるものかわからない場合でも試してみる価値はありそうです。気を付けなければならない点は糖尿病に使えないことです。基礎的にはドパミン受容体、セロトニン受容体拮抗作用により食欲を刺激されると言われていますが、ご存じの通り本来は向精神薬なので、眠気などの副作用があります。元々精神疾患に使用した場合の肥満の副作用は嫌がられてきました。肺癌では予後の短さもあって倦怠感、食欲不振に対してステロイドが簡単に使われる傾向にあります。他に食欲不振に対するエビデンスのある薬としては女性ホルモン剤がありますが、日本ではあまり使われている印象がありません。予後が伸びてきた現在、今回のようなマイナートラブルに対するきめ細やかな配慮も求められてきています。今回の結果を受けて、ASCOガイドラインでCachexiaのアップデートが行われており、中の推奨度で低用量オランザピンの記載が追加されました[Roeland EJ JCO2023 PMID:37467399]。話は前後しますが、高催吐性レジメンでのオランザピン10㎎(4日間)が有効であることはすでに報告されています[Navari RM NEJM2016 PMID:27410922]。この薬をさまざまな場面でうまく使うのは臨床医の腕の見せどころと言えます。