KRAS G12Cは脳転移が多く、ICIによってもあまり予後が改善しない

Survival of patients with KRAS G12C mutated stageIV non-small cell lung cancer with and without brain metastases treated with immune checkpoint inhibitors.

Swart EM et al.
Lung Cancer. 2023 Jul 1.
PMID:37419045.

Abs of abs.
IV期のKRAS G12C変異陽性非小細胞肺癌において、免疫チェックポイント阻害薬+化学療法(あり/なし)の初回治療を受けた場合、脳転移が生存に影響するかどうかはよくわかっていない。今回はオランダがん登録から後ろ向きにデータを収集した。2019年1月1日~6月30日に診断されたKRAS G12C変異陽性Ⅳ期で、初回治療を受けた患者について、頭蓋内進行の累積発生率、生存期間。無増悪生存期間を見た。全体患者2489人のうち、KRAS G12C変異陽性で初回化学療法を受けた患者は153人であった。うち35%(54/153例)が脳画像検査を受け、そのうち85%(46/54例)がMRIであった。脳画像検査を受けた患者の半数(56%; 30/54人)に脳転移を認め、全患者では1/5(20%; 30/153人)に脳転移を認め、67%が有症状であった。脳転移のある患者は若く、より多くの臓器に転移がみられた。脳転移例の30%は診断時に5個以上の脳転移を有していた。3/4は、化学療法開始前に放射線治療を受けていた。頭蓋内進行の1年累積発生率は、ベースラインで脳転移が判明している患者で33%、そうでない患者では7%であった(p=0.0001)。PFS中央値は、脳転移ありで6.6ヵ月[3.0-15.9]、脳転移なしで6.7ヵ月[5.1-8.5]であった(p=0.80)。生存期間は脳転移ありで15.7ヵ月[6.2-27.3]、脳転移なしで17.8ヵ月[13.4-22.0]であった(p=0.77)。転移性KRAS G12C陽性肺癌ではベースラインでの脳転移ありが一般的である。初回治療中、ベースライン脳転移が判明している患者では頭蓋内進行の頻度が高く、治療中の定期的な画像診断が正当化される。ただしベースライン脳転移の有無はOSおよびPFSに影響しなかった。

感想
KRAS陽性はICIが効きやすいという報告が多い一方で、全体的な予後不良が言われています。今回の母集団はG12C陽性で、ICI単剤(42%)、ICI+ケモ(58%)を行った集団です。脳転移のスクリーニングは症状があれば行うといった部分があり、全員にベースラインで行われているわけではありません。そのため有症状が多くなります。さて脳転移なしでの生存期間中央値は17.8ヶ月と、KN189の22ヶ月と比較して若干悪く、私たちの施設の少数例でみても、脳転移の多さと予後の悪さは実感できます。脳転移ありにおける頭蓋内進行が、ない例に比べて約5倍と高いことは注目に値します。つまり最初から脳転移がある例は無症状でも常にスクリーニングが欠かせないということになります。今回はソトラシブの使用についての言及はありませんが、EGFR-TKIほどの効果がないことから、以前難治であると言えます。また脳転移に関するソトラシブのまとまった報告はなく少数例の検討[Lamberti G JCO Precis Oncol2023 PMID: 36809054]では、未治療脳転移に対して4人中3人になんらかの反応が確認され、奏効期間中央値は4.1ヶ月と報告されています。ちなみにこの報告では脳転移例は予後不良傾向(19ヶ月 vs 16.1か月 P=0.063)としています。まとめるとドライバー変異といってもソトラシブの効果は限定的であり、免疫療法導入によっても依然としてKRAS G12Cは予後の悪いグループとして捉えておく必要があるということになります。