肺癌治療の進歩にもかかわらず、まだ気管支漏には対処が難しい

Bronchorrhea, a Rare and Debilitating Symptom of Lung Cancer: Case Report and Review of the Treatment.

Bhagat M et al.
JTO Clin Res Rep. 2022 Aug 27;3(10):100398.
PMID:36164316

Abs
気管支漏は、100mL/日以上の多量の水様痰の発生と定義され、末期肺癌、特に浸潤性粘液性腺癌に多く見られる消耗性の症状である。まれに低酸素性呼吸不全の原因として救急医療の現場で発見されることがある.今回は粘液性肺腺癌と診断され,急速に呼吸不全が悪化、ICUで治療された51歳女性の症例を報告する。この症例は一日量が1000mL/dを超える大量の気管支漏が認められた。この病態の治療にはエビデンスの量と質が限られており、多数の薬剤を投与してみたが大きな効果は得られなかった。この病因と痰量減少を行い症状緩和を行うための治療法について議論する。

感想
時々遭遇する病態です。古典的肺胞上皮癌に合併してくる病態で、「治らない肺炎」「熱のない肺炎」として紹介されるケースも経験上多いです。難しいのは最初感染を合併して発熱していたり、また炎症反応も少し上がっていたりして抗生剤治療を長々と行われがちである点です。中には気管支鏡されても粘液しか取れずCOPとしてステロイドを入れてから「それでも治らない」と紹介されるケースもあります。残念なことにEGFR遺伝子変異などのドライバー変異も出ることが少なく、また経気道的に広がる以外には遠隔転移も起こしにくく、少しづつ呼吸状態が悪化し「水みたいな痰」が出続ける厄介な病気です。本文では症状緩和について抗コリン薬、ステロイド、マクロライド、オクトレオチドが紹介され新たな情報はありません。肺癌治療の目覚ましい進歩の一方、未だ進歩が見られない病態であり、解決が必要な病態ということで今回の報告が掲載されたのだと思います。
肺癌の基幹施設で診療されている先生の中には、「治らない肺炎」に対して、なぜもっと早く精査しないのかと憤りを感じる先生もいるかもしれません。一般肺炎など多く見る施設では、多少陰影の改善が悪い肺炎があったり、誤嚥性肺炎をはじめとする発熱の少ない肺炎があったりして、この病態を初めから疑うことは簡単なようでいて難易度がかなり高いです。そのようなことも若い先生には知っておいていただきたいと思います。