ERBB2変異肺癌に対する通常治療の成績

Exploration on the first-line treatment of ERBB2-altered advanced non-small cell lung cancer: A multicenter retrospective study.

Chen J et al.
Lung Cancer. 2023 Jul 24 Epub ahead of print.
PMID:37517117.

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ERBB2変異非小細胞肺癌の治療は長年研究されてきたが、初回治療の選択について包括的な研究はない。免疫療法の進歩により多様な併用療法が使われるようになった。この検討のため多施設共同後ろ向き研究を行った。ERBB2陽性で、少なくとも1回の全身化学療法を受けた非小細胞肺癌患者を登録し、初回化学療法単独、抗ERBB2チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、化学療法+免疫療法、化学療法+血管新生阻害薬治療、化学療法+免疫療法+血管新生阻害薬治療の有効性を評価した。アウトカムは奏効率、病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(mPFS)、1年生存率、3年生存率とした。ERBB2遺伝子変異36人とERBB2増幅29人について検討した。奏効率は30.8%、DCRは69.2%、PFS中央値は5.7ヵ月であった。TKI治療との比較では化学療法+免疫療法(7.8ヵ月 vs 3.6ヵ月、ハザード比0.24[0.09-0.64]、P=0.002)および化学療法+血管新生阻害薬治療(5.9ヵ月 vs 3.6ヵ月、ハザード比0.36[0.15-0.88]、P=0.019)で、いずれもPFSが延長していた。化学療法+免疫療法または化学療法+血管新生阻害薬と化学療法との間でmPFSに有意差はなかったが(P>0.05)、前2つの治療のmPFSはより長かった。ERBB2変異患者のmPFSは5.9ヵ月であり、TKI療法と比較して化学療法+免疫療法(12.9ヵ月 vs 2.9ヵ月、ハザード比0.15[0.03-0.68]、P=0.005)および化学療法+血管新生阻害薬治療(7.1ヵ月 vs 2.9ヵ月、ハザード比0.50[0.29-0.88]、P=0.009)はいずれもmPFSが延長していた。同じ治療法におけるERBB2遺伝子変異か増幅かでの、PFSの有意差を認めなかった(P>0.05)。
ERBB2変異非小細胞肺癌の初回治療において、化学療法に免疫療法または血管新生阻害薬を併用することは、ERBB2標的療法よりも生存利益が向上する可能性がある。しかし有効性では上回らない可能性もある。

感想
ERBB2(HER2)は近々出てくるであろう治療対象のドライバー変異です。TKIとして現在保険適応はありませんが、アファチニブとダコミチニブでの臨床試験が行われており、3-4ヶ月のPFSが示されています。理論上は効果があっても臨床的に満足できる結果とは言えません。そこで進んできたのが抗体薬物複合体で、一端にERBB2を認識する抗体があり、これに抗がん剤をひっつけたもので「ミサイル療法」と呼ばれることもあります。病巣まで安定して届け、適切に有効薬物を放すことは、連結物質(リンカー)の性能にかかっており開発に多くの技術が使われています。この先行薬剤としてのトラスツズマブデルクステカン(エンハーツ)は、既治療ERBB2遺伝子変異のある肺癌に対して、奏効率55%、PFS8.2ヶ月とこれまでの治療より良好であることが報告されています[Bob TLi NEJM2022 PMID:34534430]。
さて今回は抗体薬物複合体が導入される前のこの集団に対する治療成績のまとめになっています。今後このようなデータは出なくなるので、今後の研究と対比する上で貴重なものとなります。薬効という意味でPFSを見ると、TKIの悪さが目を引きます。治療選択にはバイアスが大きいので一概には言えませんが、抗がん剤に免疫療法あるいは血管新生阻害薬の上乗せもそれなりに利益がありそうです。また治療法について変異か増幅かで分けたPFSも載っていますが、症例数が非常に少なく違いを見出すのは困難です。全体のPFSは変異増幅とも重なっており、いまのところ一括して扱ってもよいのかも知れません。ERBB2変異・増幅に対しては、今のところEGFR/ALK野生型と同様に考えて、抗がん剤を基本として可能な人にはICIあるいは血管新生阻害薬の上乗せを検討するということになります。