免疫療法と脳への定位照射、放射線壊死の頻度が高まるかもしれない

Immunotherapy and Symptomatic Radiation Necrosis in Patients With Brain Metastases Treated With Stereotactic Radiation.

Martin AM et al.
JAMA Oncol. 2018 Jan 11
PMID: 29327059

Summary of the letter
免疫療法チェックポイント阻害薬は、悪性黒色腫、非小細胞肺癌、腎細胞癌の患者によく使用される。これらの患者の脳転移には放射線治療が頻用される。脳への定位放射線療法での有害事象には放射線壊死があり、これは腫瘍に隣接する脳への損傷である。これまでの報告では、免疫療法と定位放射線には相乗効果があることが示唆されている。今回は非小細胞肺癌を含む腫瘍で脳への定位放射線がなされた患者で、免疫療法と有症状の放射線壊死との関連を調べた。2001年-2015年の間に、定位放射線で治療された上記の3種の癌のうち、115人が免疫チェックポイント阻害薬(イピリムマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ)を受けていた。同期間に365人が免疫療法を受けていなかった。免疫療法は中央値で14.3週[8.0-31.0]されていた。追跡期間中央値は、免疫療法を受けた患者が23.1カ月[15.4-42.1]、受けていないものが25.1カ月[15.2-34.3]であった。免疫療法を受けた患者では115人中23人、受けていない患者では365人のうち25人に有症状の放射線壊死がみられた。組織型で調整しても放射線壊死と関連していた(ハザード比2.56[1.35-4.86];P=0.004)。この関連は、悪性黒色腫において特に強かった(ハザード比4.02)が、特にイピリムマブを投与した場合に強く見られた(ハザード比4.70)、PD-1阻害薬と免疫療法なしの比較では統計学的有意差は見出されなかった(ハザード比3.57;P=0.06)。免疫療法を受けて有症状の壊死を発症した23人の患者のうち、18人(78%)がデキサメタゾンで治療されていた。本研究から脳転移に対する定位放射線と免疫療法を受けることが、症候性の放射線壊死と関連することが見出された。この2種類の治療の組み合わせのリスクベネフィットの評価は将来の課題である。

感想
JAMAoncologyのレターに掲載された記事です。ニボルマブが日常臨床で使用されるようになってから2年以上経過し、臨床経験も徐々に蓄積されつつあります。それとともに問題点にも多く遭遇するようになってきました。私の所でも、脳転移を局所治療後、免疫療法を長期に継続したのち増大し病勢進行かと思われたのですが、専門家へ相談したところ放射線壊死と判断された症例を経験したことがあります。その時は稀な出来事と思っていたのですが、似たような症例を見聞きするにつれ、免疫療法の有害事象ではないかと疑っていました。しかし深く追及することはなく、今回の論文に遭遇しました。今後定位照射後の壊死は、重要な問題としてクローズアップされる可能性があります。ただ放射線壊死の診断は難しく、どう行うかはまだ議論があります。詳しくは脳神経外科関連学会で作っているガイドライン(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/26/4/26_287/_pdf/-char/ja)がよくまとまっており門外漢には役立ちます。それによると頻度は定位照射で高く、照射による血管の2次的な変化で起こるという機序が想定されているようです。今回の放射線壊死の発生率は、免疫療法群で20%、非併用群で6.8%で、明らかに免疫療法で高頻度でした。またカプランマイヤー曲線を見ると2年半くらいの間に一定の頻度で起こるようです。
今回の主張は免疫療法と定位放射線で毒性が増えるかもしれないという内容でしたが、全脳照射も含めた放射線療法と免疫療法の安全性を評価した別の報告[Hubbeling HG JTO2018 PMID:29378267]ではあまり差がないとされています。しかしこの論文でも放射線壊死は確認されており、対立するものではなく症状によるグレード評価と、放射線壊死という事象に焦点を絞った場合との視点の違いであろうと考えられます。