循環腫瘍DNAが早く消失してもアウトカムは変わらない

Clearing of circulating tumour DNA predicts clinical response to first line tyrosine kinase inhibitors in advanced epidermal growth factor receptor mutated non-small cell lung cancer.

Ebert EBF et al.
Lung Cancer. 2020 Mar;141:37-43.
PMID:31945708

Abs of abs.
非小細胞肺癌におけるEGFR遺伝子変異の存在はTKIの奏効と関係する。しかし一部で反応しないあるいは一部しか反応しない患者もいる。今回は治療初期において血中に同定される循環腫瘍DNAでのEGFR遺伝子変異(ctDNA)の動態を調べアウトカムを予測するかどうか研究した。進行EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌225人を前向き多施設研究にて連続的に血液検体を採取した。これらのうち146人が初回治療としてのTKI治療を受け、かつベースラインでのCobasV2による血液でのEGFR遺伝子変異測定結果が入手できた。血中での消失とアウトカム調べるために、ベースラインにおいてctDNAが検出可能であった98人について少なくとも一回のフォローアップを含め解析した。血漿にてベースラインでEGFR遺伝子変異が存在していた患者について、変異遺伝子の消失は奏効率、無増悪生存期間および全生存期間の陽性予測マーカーであった。このことは初めの7週以内でのctDNAが消失した患者と、それより遅いペースで消失した患者の両者に同等に見られた。ベースラインでの遺伝子変異の存在は無増悪生存期間および全生存期間の負の予測因子であった。今回の研究は白人コホートにおいて、EGFR遺伝子変異の血中からの消失が、初回治療におけるTKIのアウトカムを予測するという結果の最初の報告となる。

感想
日本からも類似の研究はすでに先行報告されています。血漿中のctDNA動態とTKI効果の研究は王道中の王道の研究で、大きな臨床試験が行われる際には付随研究として行われるケースが多くなっています。症例数は少なくとも、日本人の方が研究を緻密に設定し、多くの項目を調べる傾向にあると思います。今回はまずベースラインを設定していますが、これがよくわかりません。患者のダイアグラムでは「治療前サンプルが得られなかった66人を除外」と書かれていますが、一方で「ベースラインの血液は治療開始から10日以内に取られた」と書いてあります。おそらく治療開始直後をベースラインとしているようです。結局146人中44人がベースラインでの遺伝子変異が存在せず、重複もあるかもしれませんが16人のTKI効果が評価されていません。ざっと見て44/146=30%を除外しています。これらベースラインでのctDNAあり・なしでPFS、OSともはっきりと差があり既報と一致します。ベースラインでのctDNAなし群のOS中央値は42.4ヶ月でした。一方ベースラインでのctDNAありにおいて、治療中にctDNAが消失すれば消失群とされ、ます。これには77/98=78.6%が該当し、明らかにPFS、OSが良好です。しかし良好とは言えOS中央値は30.2ヶ月でベースラインでのなし群より悪くなっています。また治療開始から7週以内にctDNAが検出されなくなったものを高速消失群と定義しましたが、この群のOS、PFSが特に良いということはありませんでした。このようにctDNAの消失はアウトカムとある程度関連することは確実ですが、使い方はあるでしょうか。今後慢性骨髄性白血病のように細胞遺伝学的奏効や分子遺伝学的奏効などの分類を作り、治療選択に生かすことができればよいですが、現在のEGFR-TKIは超長期の効果は期待できず休薬や減量を期待できる段階にありません。私には現在のところこの検査の方向性はよく見えません。COVID-19のPCR検査と同じで適切な検査の適応の決め方は難しいと感じます。