Lack of Association Between Immunotherapy and Improvement of Survival for Non-small Cell Lung Cancer Patients With Hemodialysis: A Nationwide Retrospective Cohort Study.
Sawa K et al.
Clin Lung Cancer. 2024 Mar;25(2):144-150.
PMID:38042690.
Abs of abs.
維持透析を受ける患者数は世界的に増加し続けており、これらの患者ではがんの発生率が高い。免疫チェックポイント阻害薬は進行癌、特に非小細胞肺癌で広く使用されているが、透析患者における有効性はあまり報告されていない。今回の後ろ向きコホート研究では、全国規模のデータベースのデータを用いた。透析を受けているときに非小細胞肺癌と診断され、2008年9月から2023年1月までに化学療法を開始した患者を対象とした。ITT解析では、患者を免疫チェックポイント阻害薬群と従来の化学療法群に分け、時系列解析内においては患者をICI承認前後の2群に分けた。交絡因子に対処するために逆数で重み付けした傾向スコア解析を行った。ITT解析では322例、時系列解析では389例が同定された。いずれの解析においても、2群間でOSに明らかな差はみられなかった(P=0.933、0.248)。OSのハザード比は、ITT解析で0.980[0.678-1.415]、時系列解析で0.805[0.531-1.219]であった。今回の解析では、透析を受けている非小細胞肺癌におけるICIは、治療導入および承認前後における予後改善と有意な関連はなかった。
感想
DPCデータを使用した研究です。高齢化に伴い透析中の肺癌も増えています。手術はともかく、抗がん剤については投与量、透析とのタイミングなど解決すべき問題が多く各施設が手探りで行っていると思います。小細胞肺癌についてはケースシリーズがありますが、前向き研究は存在しません。引用されていますが、過去に日本からのまとまった報告[Minegishi Y LungCancer2022 PMID:35952438]があります。それによるとEGFR遺伝子陽性例に対するTKIと小細胞癌に対しては考えてもよい、との結論になっています。具体的な投与法として、CBDCA=300mg/m2(day1)とETP=50mg/m2(day1,3)をあげています。これらの抗がん剤をした人の生存期間中央値は12.3か月、TKI使用例は38.6か月であったことから良いのではと結論しています。
今回のDPCからの解析で傾向スコアでマッチさせたものでは、ICIと従来抗がん剤の差はほとんどなく重なっています(Fig2B)。いわゆるヒストリカルコントロールとしてのICI承認前後の比較も、後のほうが良いように見えますが、有意とは言えません。抗がん剤の是非はともかく、免疫チェックポイント阻害薬の上乗せの利益はあまりないであろうといえます。私は透析患者における抗がん剤投与は、小細胞肺癌であっても生存利益が本当にどれくらいあるのか、もっと研究を進める必要があると思っています。腎不全に至った原疾患以外にも易感染性、貧血、心不全、骨病変など多くの透析の長期合併症があります。年齢も大きなファクターであり、完治のない抗がん剤投与によって予後が短くなることは現に慎まねばなりません。抗がん剤にはさまざまな有害事象の管理が必要になります。それらをうまく乗り越えてこその抗がん剤治療であり、考慮すべき危険因子の多い状況での管理は決して容易ではありません。