癌性髄膜炎による治療薬剤毎の転帰

Clinical Outcomes of Patients with Non-Small Cell Lung Cancer Leptomeningeal Disease Following Receipt of EGFR-Targeted Therapy, Immune-Checkpoint Blockade, Intrathecal Chemotherapy, or Radiation Therapy Alone.

Mills MN et al.
Clin Lung Cancer. 2024 Jul;25(5):417-423.
PMID:38719648.

Abs of abs.
EGFRを標的とした治療薬(ETT)と免疫チェックポイント阻害薬(ICB)は、非小細胞肺癌の脳転移(BM)治療において有望な結果を示している。 しかし、髄膜病変(LMD)に対する効果についてはほとんど知られていない。 今回は2014年1月から2021年3月までに非小細胞肺癌の髄膜病変と診断された患者80例の後ろ向き研究である。 患者は、初回髄膜病変に対する治療:放射線治療単独、EGFR治療、免疫、髄腔内化学療法分けてグループ化された。 EGFR遺伝子変異は22例(28%)に認められた。 20人の患者は脳脊髄液の細胞診が陽性であったが、60人の患者は臨床経過とMRIに基づいて診断された。 RT単独群は主に全脳照射(n=20;77%)、定位照射(n=3;12%)、緩和的脊髄照射(n=2;7%)で構成されていた。 年齢、PS、神経症状において治療群間に有意差はなかった。 全体として、6ヵ月全生存率は35%、頭蓋髄膜無増悪生存率は24%であった。 ETT群、ICB群、ITC群、RT単独群の6ヵ月OSはそれぞれ64%、33%、57%、29%であった(P=0.026)。 ETT群、ICB群、髄腔投与群、放射線単独群の6ヵ月CS-PFSは、それぞれ43%、33%、29%、19%であった(P=0.049)。 単変量解析の結果、RT単独群と比較したETTの投与は全生存のハザード比0.35、P=0.006およびCS-PFS(ハザード比0.39、P=0.013)において有意であった。 非小細胞肺癌の髄膜病変の予後は、全体として不良のままである。 しかし、EGFR遺伝子変異陽性に対するETTの投与は予後の改善と関連していた。

感想
打つ手の少ない癌性髄膜炎の状態ですが、まとめると少しみえてくることもあります。EGFR遺伝子変異陽性例に対するTKI投与は標準治療であり、最も成績がよいのは当然です。Fig2が今回の肝ですが、全脳照射を含めた放射線単独が最も成績が悪く、免疫療法や髄注もわずかですが利益がありそうに見えます。打つ手がないときに全脳照射は考えがちですが、やはり効果は低いようです。髄注はメトトレキサート以外にチオテパ、トポテカン、シタラビンが使用されています。免疫療法は一般的なものですが、髄膜炎どころか脳転移に効果がある印象はなかったので意外でした。なおP=0.026と書いてありますが、説明がないので意味不明です。統計ソフトが出した数字であれば、「4群が同じ母集団であった場合に、これより極端な値をとる確率」を示しているだけです。ディスカッションで述べられているように、EGFR野生型では髄膜炎に対する全脳照の有効性があり、mutantではそれがないという報告も興味深いです。現在髄注のTKIの組み合わせが試験中とのことです。TKIが効かなくなった最終結果としての癌性髄膜炎が、最近多くなっているように感じます。診断もなかなか難しいのですが、発症のバリエーションも様々です。TKIが出るまではほとんど経験しなかった病態ですが、強力な薬でも結局血液脳関門次第であるということかも知れません。