肺癌治療の進歩と死亡率低下

The Effect of Advances in Lung-Cancer Treatment on Population Mortality.

Howlader N et al.
N Engl J Med. 2020 Aug 13;383(7):640-649.
PMID:32786189

Abs of abs.
肺癌は非小細胞肺癌(NSCLC)と小細胞肺癌(SCLC)に分けられる。米国では肺癌による全死亡率は減少傾向だが、死亡診断書には型まで記載されないため、人口レベルでの型別の死亡率の傾向についてはわかっていない。Surveillance, Epidemiology, End Results(SEER)データベースを用いて、肺癌死亡率を調べ、癌登録における発生率と肺癌死亡とを関連づけた。これにより、特定の型に起因する集団レベルの死亡動向(発生率ベースの死亡率)を評価した。また、肺癌の発生率と生存率を、癌の型、性、年齢別に評価した。発生率と発生率ベースの死亡率の傾向を評価するためにJoinpointソフトウェアを使用した。NSCLCによる死亡率は,それぞれの型別の発生率よりも早く減少していた,この減少は分子標的治療の承認時期と対応し、生存率が大きく改善したことと関連していた。男性では、NSCLCによる発生率ベースの死亡率は、2013年から2016年で見ると毎年6.3%の減少であった。また2008年から2016年までで見ると毎年3.1%減少であった。対応する肺癌の生存率は、2001年に診断されたNSCLCの男性では26%であったが、2014年に診断された男性では35%に改善していた。このような改善は、すべての人種民族で見られていた。NSCLCの女性でも同様のパターンがみられた。一方SCLCによる死亡率の減少は、発生率の低下の結果のみであり、生存率の改善は見られなかった。これは、調査期間においてSCLCの治療の進歩があまりなかったことと関係している。今回の研究では、米国のNSCLCによる人口レベルの死亡率は2013年から2016年にかけて大きく低下し、診断後の生存率は大幅に改善していた。この期間の死亡率の減少は、発生率の低下と治療の進歩、特に分子標的治療の承認と使用により説明できそうである。

感想
月並みな話ですが、実感と非常に合います。NSCLCの人の予後は全体的に伸びた気がしますが、発生率が下がった印象は全くありません。日本ではまだ増え続けています。治療はTKIの効果が劇的であり延命に寄与していることは間違いないところです。しかしSCLCは減った印象ですが、生存率は全く改善されていません。特にED-SCLCでは治療の繰り返しで、できなくなるまで続ける感じです。免疫療法の上乗せの評価はこれからでしょうが、今のところ劇的な改善というにはほど遠いです。臨床試験もそれに合致しており、20年前の有名なJCOG9511試験[Noda K NEJM2002 PMID:11784874]ではCDDP+CPTでMST12.8ヶ月、これは当時画期的であったわけですが、最新のCASPIAN試験でもplatinum+ETP+durvalumab群で13.0ヶ月ですので、あったとしてもごくわずかの進歩しかないわけです。Fig3にあるように、NSCLCでは発生率の低下とともに2年生存率は男性26→35%で増加、同じく女性は35→44%へ増加しています。対してSCLCがFig4に示されており、ほぼ横ばいで、発生率が下がっているのみです。今回のデータは非常に地味ですが、臨床試験での積み重ねが実地にもきちんと反映されているという点で貴重です。
さて私が今回取り上げた理由は、論文を書く際にイントロの出だしで使われるお決まりの「非小細胞肺癌の死亡率は・・・」のくだりで引用として使うのに非常にいいからです。これまでは引用先がデータベースだったり、古い統計であったりして今一つでした。これからは迷うことなく決められそうで、個人的にひっかかりが少し解消されました。