血漿T790Mをモニターし、オシメルチニブへ切り替える戦略は有効か?

Osimertinib treatment based on plasma T790M monitoring in patients with EGFR-mutant non-small-cell lung cancer (NSCLC):EORTC Lung Cancer Group 1613 APPLE phase II randomized clinical trial.

Remon J et al.
Ann Oncol. 2023 May;34(5):468-476.
PMID:36863484.

Abs of abs.
APPLE試験はゲフィチニブとオシメルチニブの最適なシークエンス戦略を考えるために、血漿T790Mの長期モニタリングの実現可能性を評価することを目的として行われた。本試験はEGFR遺伝子変異を有する未治療非小細胞肺癌患者を対象とし、3つの治療群について無作為化、比較を目的としない第Ⅱ相試験である:A群(オシメルチニブをRECIST PDまで投与)、B群(ゲフィチニブをT790M変異出現/RECIST PDまで投与)、C群(ゲフィチニブをRECIST PDまで投与)。その後両群でオシメルチニブに切り替えることとした。主要評価項目は、B群における18ヶ月時点での「オシメルチニブ投与中」の無増悪生存率(PFSR-OSI-18)とした(帰無仮説:PFSR-OSI-18が40%以下)。副次評価項目は、奏効率、全生存期間、脳転移PFSであった。今回はB群とC群の結果を報告する。2017年11月から2020年2月にかけて、B群52名とC群51名が無作為に割り付けられた。大半は女性(70%)で、19Del(65%)、1/3に治療前の脳転移があった。B群では17%の患者(8/47)に、RECIST PD前のT790M変異が出現しオシメルチニブに切り替えた。この分子上のPDまでの中央値は266日であった。主要評価項目のPFSR-OSI-18は、B群で67.2%[84%CI:56.4-75.9%]、C群で53.5%[42.3-63.5%]、(ランダム化を起点としオシメルチニブスイッチ後のPDまでとした)PFSは22.0ヶ月、20.2ヶ月であった。OSはB群では未達、C群では42.8ヶ月、脳転移PFSはB群24.4ヶ月、C群21.4ヶ月であった。本研究では、第1世代EGFR阻害薬の治療中にctDNA T790M状態を連続しモニタリングすることが実現可能であった。RECIST PD前の分子上の進行により、17%の患者でオシメルチニブへの早期切り替えが行われ、十分なPFSおよびOSの結果が得られた。

感想
実臨床上で役に立つ比較試験結果と思います。初回治療のオシメルチニブのPFSは18ヶ月ですので、ゲフィチニブで始めて、何らかの増悪が認められた場合「無条件に」オシメルチニブにスイッチする戦略を取ったデータはあまりありません。日本では保険で許されていませんが、コスト面では悪くない選択肢と思っています。もしこのシークエンス治療が許された場合、RECIST PDでスイッチするC群のデータが興味深いです。C群のオシメルチニブPFSは20.2ヶ月とまあまあですが、ゲフィチニブ継続中あるいはスイッチできずに終わってしまった人も含まれます。一方血漿T790Mで変更した群は、これよりオシメルチニブの投与期間はどうしても長くなるので24.4ヶ月は妥当なところと思います。今回は初回をオシメルチニブで開始した人との比較ができないため、FLAURAのPFS18ヶ月(つまり継続率50%)と比較してどうかという議論になっています。血漿T790Mで切り替えた方が67.2%と良さそうに見えますが驚くほどではなく、またOSはB群C群ともクロスしており、コストに見合わない印象です。結局単純に画像PDで切り替える、もしく最初からオシメルチニブにしておくのと大差がない印象です。TKI使用後T790M陰性に対するオシメルチニブで数字の遊びをしましたが、結局どうやっても既存のTKIの順番の工夫ではあまり生存アウトカムは変えられないのかも知れません。