術後のctDNAの長期モニタリング、実用性はなかなか難しい?

Longitudinal Monitoring of Circulating Tumor DNA From Plasma in Patients With Curative Resected Stages I to ⅢA EGFR-Mutant Non-Small Cell Lung Cancer.

Jung HA et al.
J Thorac Oncol. 2023 Sep;18(9):1199-1208.
PMID:37308037.

Abs of abs.
若い病期のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対しては、根治切除後に術後補助化学療法を行うことが標準である。本研究では、切除されたⅠからⅢA期のEGFR遺伝子変異陽性肺癌について、微小残存病変(MRD)を早期に発見し、再発リスクの高いグループを同定するためのバイオマーカーとして、循環腫瘍DNA(ctDNA)の長期間モニタリングの実現可能性と有効性について評価した。2015年8月から2017年10月の間に、根治切除されたⅠからⅢA期のEGFR遺伝子変異陽性患者278人を解析した。画像検査は、ベースライン(術前)、手術の4週間後、および5年間の規定プロトコールによるフォローアップとともに、droplet-digital PCRを用いたctDNAの長期モニタリングを行った。主要評価項目はランドマーク地点におけるctDNA陽性度合いと無再発生存率(DFS)と、ctDNAの感度とした。278例中、術前のベースラインctDNAが検出されたのは67例(24%)であった:23%(IA期)、18%(IB期)、18%(ⅡA期)、50%(ⅡB期)、42%(ⅢA期)であった(p=0.06)。ベースラインのctDNAが検出された患者のうち、76%(67例中51例)が術後4週間の時点で排除されていた。患者は以下の3群に分類された:A群、ベースラインctDNA陰性(n=211) vs B群、ベースラインctDNA陽性だが術後MRD陰性(n=51) vs C群、ベースラインctDNA陽性かつ術後MRD陽性(n=16)。3年DFS率は3群間で有意に異なっていた(A群84%、B群78%、C群50%、p=0.02)。背景因子で調整後であっても、ctDNAは病期(p<0.001)およびmicropapillary(p=0.02)と並んで、DFSの独立した予後不良因子であった。ctDNAの経時的モニタリングにより、19Delの69%およびL858Rの20%において、画像上の再発前にMRDが検出された。今回の結果は、完全切除されたⅠからⅢA期のEGFR遺伝子変異陽性肺癌において、ベースラインでctDNA陽性またはMRD陽性であった患者はDFS不良と関連し、非侵襲的な方法であるctDNAのモニタリングが画像上での再発前に再発を検出するのに有用である可能性を示唆している。

感想
リキッドバイオプシーの技術の進歩により血漿中で様々な解析が可能となっています。微小残存病変(MRD)という言葉はもともと血液悪性腫瘍から来ています。顕微鏡下で血液悪性腫瘍細胞がなくとも、わずかに検出されるものが元々MRDと呼ばれるものですが、固形腫瘍の場合は癌細胞そのものを見つけるのが困難なためctDNAなどで代替的に使用しています。今回は術後再発の画像上の出現よりctDNAの方が早く検知できるという当たり前といえば当たり前の研究結果です。細かく見ると術後にctDNAが消えないグループはⅠ期でもDFSが悪い(Fig2C)ので、タグリッソによる術後補助化学療法のよい適応になるかもしれません。懸念される問題は19DelとL858Rで、検出率がかなり違うという点です。考察でも述べられている通り、L858Rのような一塩基置換ではddPCRの感度が悪くなることが考えられます。つまりctDNAの問題を論じる際には遺伝子変異の違いも考慮する必要があるということです。さらに画像上の再発よりMRD陽性が先行したのが多いと言っても54%であり、逆にMRD陰性でも画像上再発したのが3割弱あり、コストを考えると定期モニタリングすべきであるとはとても言えません。これらctDNAの研究は資金豊富な施設を中心に精力的に進められていますが、コストに見合うレベルになかなか到達しないように見受けられます。ハイリスク群をうまく検出できたとしても、薬物介入により予後延長を証明するにはさらにハードルが高くなります。ごく限られた集団での有用性ということになると、今後は投資回収ができず検査会社が興味を持ち続けられないかもしれません。このようにイメージはしやすいのですが、この論文を読んで、ctDNAの世界はなかなか前途多難な印象を持ちました。