術後肺癌の予後スコア化、TNM+他因子でより層別化可能?

Predicting survival following surgical resection of lung cancer using clinical and pathological variables: The development and validation of the LNC-PATH score.

Balata H et al.
Lung Cancer 2018 Nov;125:29–34.
PMID:

Abs of abs.
本研究の目的は、肺癌切除後に利用可能な臨床的および病理学的変数によって死亡リスクを層別化することができると考え、シンプルな予後予測スコアリングシステムを開発し確認することにある。今回は病理学的ステージングで考慮されない追加の病理学的因子と生存に関する因子を組み合わせることで、新しい予後予測ツールを開発した。非小細胞肺癌(NSCLC)で外科切除を受けた患者から病理学的および他の臨床的因子について、2年生存と関連する因子を多変量ロジスティック回帰分析を使用しスコアリングシステムを開発した。その後別のデータセットで確認した。大規模データセット(n=1421)について「LNC-PATH」(リンパ血管浸潤、N因子、術後補助化学療法、PS、年齢、T因子、組織型)を用いた多変量ロジスティック回帰から予後スコアを開発し、別データセット(n=402)を用いて検証した。これにより患者を低リスク群、中リスク群および高リスク群の3群に分けられ、これらの群間には生存について統計的有意差が認められた。低リスク群の患者の術後2年生存率は83.8%であったのに対し、中リスク群では55.6%、高リスク群では26.2%であった。スコアは中程度の結果を示し、ROC曲線下面積はテストセットで0.76[0.73-0.79]、確認セットで0.70[0.64-0.76]であった。本研究の結論としてLNC-PATHスコアは、NSCLCの術後2年生存を予測できた。これにより将来的にリスク別フォローアップ計画の開発が可能になるかもしれない。

感想
術後のフォローアップ方法は施設で差が大きいところです。多くの施設が術後5年を目途に、年に1-2回のCTや腫瘍マーカー測定をしながらフォローしているのではないかと推察します。もしかしたら緻密にフォローすれば、無症状の再発も捕まえることができ、予後が伸びるのではないかと考えるでしょう。しかし肺癌診療ガイドラインの「1-9. 術後経過観察」を見ると、intensiveに経過観察しても予後が延長するエビデンスはないと書かれてあります。また、そもそもフォローアップした方が良いのか?ということすらエビデンスがないようです。従ってより再発リスクを層別化し無駄をなくそうとするのは自然の流れです。その中でTNM分類以外に、組織型、脈管侵襲や年齢など予後に影響を与えそうなものを組み込んだ精密なスコア化ができれば理想です。今回最終的にモデルに組み込んだのはL(リンパ管侵襲)、N(N因子)、C(術後補助化学療法)、P(PS)、A(年齢)、T(T因子)、H(組織型のサブタイプ)でした。Table3にあるスコアのなかで例を挙げると、リンパ管侵襲ありは0.5、なしは0、T1は0、T3,4が2、組織型は大細胞がん2.5に対しlepedicが0とTNM分類を組織型で調整した感じになっています。スコアは3以下が低リスク、高リスクは5以上です。あくまでの術後の生存をみているだけなので無再発生存なのか、あるいは抗がん剤を受けながらの生存なのかどうかもわかりません。つまり無再発生存(DFS)であれば、フォローアップ計画と直結して考えることができたかもしれませんが、今回のデータとフォローアップを議論するのはやや飛躍のようにも思えます。将来的にはここにドライバー変異、PD-L1など腫瘍の遺伝子変異の状況が入れられてもおかしくないでしょう。ただ、この手のスコア化は多く提案されますが、本当に役立つスコア化の開発はかなり困難です。今回のスコア化も単なるTNM分類だけを使ってまとめてもそれらしいものになっていると想像します。例えばTが若いものとそうでないものとNの有り無しだけでもかなり分かれていることが想像されます。T1-2N0は2年生きる確率がかなり高いので、それらが多く含まれている集団であれば無条件に低リスクを与えてもまあまあの結果になると思います。ただ特殊な検査が要らないという点では知っていて損はないスコアなので、肌感覚として意外な再発あるいは再発確実と思われた人で再発していない人に当てはめてみて確認するのもよいかもしれません。
さて肺癌学会総会が近づいています。今回はポスター会場だけ別になっています。昨年は2日間貼りっぱなしだったのでよかったのですが、今回は毎日貼り替えのようです。私は口演よりポスターを眺めるのが好きなのです。毎年は行けないので今年は楽しみにしています。天災がなければよいですが。