Effect of adherence to treatment guidelines on overall survival in elderly non-small-cell lung cancer patients.
Lindqvist J et al.
Lung Cancer. 2022 Jul 15;171:9-17.
PMID:35863255.
Abs of abs.
欧米でも肺癌が高齢化している。今回は高齢の非小細胞肺癌患者において、初回治療のガイドラインの遵守が全生存期間に及ぼす影響と、非遵守の理由をについて評価した。2016年から2020年の間にフィンランドのオストロボスニアで非小細胞肺癌と診断された65歳以上の患者を病院登録から特定した。現行治療ガイドラインでの初回治療の遵守状況を、診断、ステージ、PSに基づいて分析し、全生存期間に及ぼす影響を分析した。65歳以上の非小細胞肺癌患者238人が同定された。ステージ別のガイドライン遵守率は年齢とともに有意に低下していた。65歳から74歳の患者の66.4%がガイドラインに従って治療を受けていたが、80歳以上では33.3%であった(p<0.001)。ガイドライン非遵守に関連する年齢以外の要因としては、PS不良、虚弱、肺機能低下などがあった。PS 0-2において26.9%にガイドライン以下の治療が行われていた。弱い治療になった理由としては、合併症、肺機能低下、主治医判断、自己決定、治療開始前のPS低下があった。ガイドラインの遵守は、すべてのステージの高齢非小細胞肺癌患者の生存期間を延長した。高齢のPS 2でも、ガイドラインの遵守と積極的な治療により恩恵を受けるようである。一方、PS 3-4の患者には積極的な治療は有益でなかった。今回の結果により高齢の非小細胞肺癌患者におけるガイドラインの遵守により全生存期間の延長が見られた。高齢で体力がある非小細胞肺癌患者のほぼ10%がガイドラインに従った治療を受けておらず、積極的治療が有益であった可能性がある。
感想
非常に面白い論点ですが、論文にするのが難しい課題です。ガイドラインは悪く言えば個人の身体機能面のみを見た治療アルゴリズムです。そこには患者の考え方、経験、社会的状況は全く考慮されません。心理面や社会面を総合的に考えて治療を決定するのが主治医の役割と言えますが、他者からみるとunder treatmentになる可能性も秘めています。医師によりover/underの傾向ははっきりと見て取れますし、建前上はover treatmentの方が学会などでは目立ちます。私はどちらかというとunderと思うのですが、それでも振り返ると抗がん剤中止のタイミングは遅すぎますし、効かないだろうと思っても何とかもう一剤を考えてしまう方です。
さて今回の論文の焦点は治療対象であるPS0-2の3割が十分に治療されない理由です。著者らはこれを6パターンに分けています(Fig3)。その6つとは医師が虚弱と判断(28.1%)、治療開始前にPS低下(26.5%)、医師判断(21.9%)、積極的治療を受けないとの患者選択(9.4%)、合併症(7.8%)、低肺機能(6.3%)でした。おそらくこれもカルテをみて決めたのでしょうが一番数値化が難しいところです。低肺機能の場合、運動負荷テストもされていないようです。またⅢ期の化学放射線療法についてはあまり選択されないようでした。あいまいなデータですが論点としては面白く読めました。確かに体力がありそうでも抗がん剤で途端にまいってしまうことはよくあることです。最近はあまり高齢者の定義は言われなくなりましたが、75歳を超える人に血管新生阻害薬や複合免疫療法は明らかにやりすぎと思っています。今回の論文では出てきませんが、治療理解を含めた認知機能の問題、援助してくれる人がいるかどうか、金銭的な問題、通院手段など多くの問題があります。日常臨床では治療の問題で悩むことよりこれらの事の解決に大きな時間を取られています。