Overall Survival with Osimertinib in Resected EGFR-Mutated NSCLC.
Tsuboi M et al.
N Engl J Med. 2023 Jun4. Epub ahead of print.
PMID:37272535.
Abs of abs.
EGFR遺伝子変異陽性の完全切除されたIB~ⅢA期の非小細胞肺癌患者において、直後の術後補助化学療法の有無にかかわらず、オシメルチニブ投与によりプラセボに比べて有意に無再発生存期間が延長することが報告された。今回、事前に予定されていた全生存期間の最終結果を報告する。この第Ⅲ相試験では、対象患者を1:1に無作為に割り付け、再発か試験治療終了(3年)または中止基準に達するまでオシメルチニブ(80mg 1日1回)あるいはプラセボを投与した。主要評価項目は、Ⅱ~ⅢA期患者における主治医評価による無再発生存期間とした。副次項目として、IB期からⅢA期の無再発生存率、全生存率、安全性でとした。無作為化された682人の患者のうち、339人にオシメルチニブ、343人にプラセボが投与された。Ⅱ~ⅢA期の患者において、5年生存率はオシメルチニブ群で85%、プラセボ群で73%であった(ハザード比0.49[0.33-0.73];P<0.001)。全体集団(ⅠB~ⅢA患者)では、5年生存率がオシメルチニブ群で88%、プラセボ群で78%であった(ハザード比0.49[0.34-0.70];P<0.001)。新たな重篤な有害事象として、Covid-19関連肺炎が、データカットオフ日以降に報告された(この事象は試験レジメンとの関連性は認められず、患者は完全回復した)。オシメルチニブの安全性は、以前の解析と一致していた。術後補助化学療法としてのオシメルチニブは、完全切除されたEGFR遺伝子変異陽性ⅠB~ⅢA期の非小細胞肺癌において、全生存期間を有意に延長した。
感想
つい先日ASCOで発表されたデータです。素晴らしい結果であることには間違いないのですが、少しづつ発表されるため、どこまでが統計的に有意で、どこからが探索的なのかわかりにくくなっています。これは最近の試験全体に言えることで、エンドポイントが多く設定されα制御が複雑化しています。作法的には全体としてP<0.05 で収めなくてはならないわけで、エビデンスとして語るには統計学的にはどこまで証明されたかをしっかりと確認しておく必要があります。プロトコールを見るとp77に多重解析の手順が書かれています。
α=5% 「DFS stageⅡA-ⅢA」
↓ α=4% 「DFS all patient」
↓ α=4% 「OS stageⅡA-ⅢA」
↓ α=4% 「OS all patient」
これらを上から順に検定して行きます。多重解析によるαの増大を防ぐため、順番を守り途中一つでも駄目ならαは持ち越されず終了になります(この手法については総説[杉谷 計量生物学2017]がわかりやすいです)。今回は結果としてすべての項目が証明され、結論に書かれている通り(ⅡA-ⅢA期だけでなく)「ⅠB~ⅢA期についてオシメルチニブのOS延長が示された」ということになります。問題となりそうなのはFig3で、術後補助化学療法(すなわちプラチナ2剤)を受けた人と受けなかった人で5年OSがほとんど変わりませんでした。これはあくまでサブグループ解析ですが、術後補助化学療法としての殺細胞性抗がん剤は不要とも思わせる(思わせようとしている?)データです。これを出すくらいなら19DelとL858R別の生存曲線を出した方が、学問的には興味が持たれるでしょう。フォレストプロットだけはFigure S3に載っていて、それによると19Delが0.35[0.20-0.59]、L858Rが0.68[0.40-1.14]でした。この生存曲線がどこかで出されているかどうかは知りませんが、ハザード比以上に曲線の形がどうなっているか気になります。また通常載せているフォレストプロットは載せずに殺細胞性抗がん剤ありなしのデータだけ本文になぜ載せた(掲載許可した)のかは、ひねくれ者の私には非常に気になるところです。もっと言えばFig S4とFig3で殺細胞性抗がん剤について同じ主張ができるでしょうか。とは言いながら、OSがたとえ変わらなかったとしてもQOLを保つ上で中枢神経系転移を防ぐ意味は大きいと思っています。したがって適応のある患者さんにはより強く勧めていこうと思っています。