The 2021 Global Lung Cancer Therapy Landscape.
Deb D, et al.
J Thorac Oncol. 2022 Jul;17(7):931-936.
PMID:35489693.
Abs of abs.
肺癌治療の状況は過去10年間で大きく進化した。しかし現在の世界的な開発状況について体系的な分析はなされていない。今回は、肺癌を対象とした前臨床開発および臨床試験中の治療薬(TE)の包括的な解析を行った。707個のTEを分析した結果、小細胞肺癌、非小細胞肺癌の両方において、開発パイプラインは継続して開発が進んでいる状況であった。ほとんどのTEが臨床試験進行中の段階にあった。免疫療法以外の領域では、分子標的治療が引き続き優勢である。腫瘍免疫のターゲットは、PD-L1阻害の系統以外に広がりつつある。今回の解析において、前臨床および臨床試験段階のTEが確実に多くなっており、肺癌治療が以前にも増してバイオマーカー主導になっていることが示唆される。
感想
2021年の段階での新規薬剤開発のトレンドについての概説で、リファレンスに使えそうな論文です。707個の新規薬剤のうち590個(83.5%)は非小細胞肺癌、117個(16.5%)は小細胞肺癌対象に開発されています。ちょうど疾患の構成割合になっているのも面白いところです。非小細胞肺癌では214個が免疫療法であるのに対し、376個は免疫以外にあります。小細胞肺癌では36個の免疫療法と81個がそれ以外になっています。Figure1はさまざまな視点で眺めることができますが、非小細胞肺癌で単なる抗癌剤治療はかなり下火であること、小細胞肺癌で免疫療法よりも分子標的治療が優勢であることが見て取れます。非小細胞肺癌に関してPD-L1阻害薬はすでに飽和状態で、ワクチンや腫瘍浸潤リンパ球、T細胞レセプター、キメラ抗原、NK細胞、樹状細胞などの細胞ベースの治療法の方向にシフトしつつあるようです。
話は変わりますが、Covid-19が急速に拡大しています。そんな中、塩野義製薬のゾコーバの緊急承認が見送られたと話題になっています。特に2022/7/21の日経新聞には「何のための薬の「緊急承認制度」なのか」との社説が掲載されました。全データがすべて開示されているわけではありませんが、Web上の資料を見る限り見送りの判断は当然であり、仮に承認してもあまり使われないであろうことも、その通りかと思います。ただこの社説は非医療者が抱くであろう疑問や期待を素朴に表しており、別の意味で興味深いものです。どちらかに正義を求めるわけではありませんが、誤差を含んだデータの取り扱いをする理系人間と、言葉や言い回しで微妙な意味を感じ取る文系人間との相容れない溝を感じた次第です。