4個以下の脳転移、切除後の定位放射線療法は予後を悪くするか

Effects of Surgery With Salvage Stereotactic Radiosurgery Versus Surgery With Whole-Brain Radiation Therapy in Patients With One to Four Brain Metastases (JCOG0504): A Phase III, Noninferiority, Randomized Controlled Trial.

Kayama T et al.
J Clin Oncol. 2018 Jun 20[Epub ahead of print]
PMID: 29924704

Abs of abs.
全脳照射(WBRT)は脳転移(BM)の標準的治療法であるが、認知機能障害の問題があるために、定位放射線療法(SRS)が好まれる傾向にある。しかし、SRSによる治療がWBRTまたはWBRT+SRSによる治療と同等かどうかはよくわかっていない。今回は、脳転移患者においてWBRTに対するサルベージSRSの非劣性を評価した。患者は20-79歳でPS0-2であり、PS3の場合は神経障害によるもののみ許容された。病変は4つ以下で、外科的に切除され3cm以上の病変が1つしかないものが適格とされた。患者は手術後21日以内にWBRTまたはサルベージSRSに無作為に割り当てられた。プライマリーエンドポイントは全生存期間であった。2006年1月から2014年5月までの間に、WBRT群に137人、サルベージSRS群に134人が登録された。全生存期間の中央値は、両群とも15.6ヶ月であった(ハザード比1.05[0.83-1.33]、非劣勢評価の片側P=0.027)。患者の脳内病変の無増悪生存期間の中央値はWBRT群で10.4ヶ月、サルベージSRS群で4.0ヶ月であった。12ヶ月後のMMSEおよびPSが悪化しなかった患者の割合は両群で同じであった。しかし、WBRT群の16.4%に、登録後91日後のグレード2-4の認知障害が見られたが、SRS群においては7.7%であった(P=0.048)。本研究によりサルベージSRSは、WBRTに劣ることなく、4つ以下の脳転移を有する患者の標準治療として成立する。

感想
日本で8年かかって登録され、最終報告まで10年を要した臨床試験です。まず肺癌診療ガイドライン2017年版で、多発脳転移への対応について概要を見てみます。多発脳転移には全脳照射が1Cで弱いエビデンスをもって推奨、4個以下で径3㎝程度まではSRSも同じく1C、5-10個までにSRSは推奨なしとされています。また手術やSRSに全脳照射の追加は勧められないとされています(高いエビデンスをもって勧められない)。これは4個までで、手術をしてその後の全脳照射の追加についてはEORTCの比較試験[Soffietti R JCO2013 PMID:23213105]でQOLが低くなったことから、このガイドラインでは推奨しない立場です。しかしこの結果は、今回の臨床試験が始まった後で報告されたものです。それでもなお大きなものをまず取った後に、残りをどう潰すかは解明すべき意義のあるテーマです。今回の研究で試験治療群はまず手術を行い、残存病変がある場合、SRSで処理する流れとなっています、取り切ってしまった場合は、再発まで経過観察し、再発した場合にSRSが可能なら行っていくという方針です。一方標準治療群は手術後、残存病変があってもなくても全脳照射を行うことになっています。原発は肺が50%弱、続いて乳癌が20%、大腸癌が15%程度の構成になっています。肺癌では標準治療が現在のものと少し異なってきていることに注意が必要です。PSが0-1が60%、2-3が40%程度でかなりPSの悪い症例も入っています。全生存期間は全期間にわたり生存曲線が重なり、ほとんど差がありません。脳内病変に限定したPFSは全脳照射が10.4ヶ月、SRSが4.0ヶ月と有意に標準治療が上回っていました。この試験のプライマリーエンドポイントは全生存期間での非劣勢で、非劣勢マージンは1.385に設定されました。これはOSに換算して中央値で2.5ヶ月減少に対応するとのことです。結果はハザード比1.05[0.83-1.33]で見込み通り非劣勢が証明されました。認知機能評価としてMMSEの悪化率を見ています。SRSの方が良好であることが期待されます(むしろそのために局所制御率を犠牲にしてSRSをするわけです)が、今回は6ヶ月後、12ヶ月ともに悪化の程度にあまり差がありませんでした。これはMMSEが認知機能の低下の検出において感度が落ちることがあることを理由の一つにしています。ただ91日以降のグレード2-4の認知障害の割合は多くなっており、解釈が難しいところです。つまり今回の試験は非劣勢を証明しpositive studyではありますが、毒性の軽減という利点もよくわからなくなっています。
今回の論文の主旨はJCOG0504総括報告書として日本語で読むことができます。その中に非小細胞肺癌における全脳照射 vs SRSは18.2ヶ月対17.2ヶ月:ハザード比1.25[0.83-1.87]とあり、全体より若干ハザード比が悪くなっています。肺癌のサブセットにおけるMMSEの変化、PS悪化などの毒性データがない以上何とも言えませんが、手術後の全脳照射については、適応をなお慎重に選ぶ必要があるかと思います。