BRAF変異と免疫チェックポイント阻害薬の有効性

BRAF Mutant Lung Cancer: Programmed Death Ligand 1 Expression, Tumor Mutational Burden, Microsatellite Instability Status, and Response to Immune Check-Point Inhibitors.

Dudnik E et al.
J Thorac Oncol. 2018 Aug;13(8):1128-1137.
PMID: 29723688

Abs of abs.
BRAF変異のある非小細胞肺癌における免疫チェックポイント阻害剤の有効性は不明である。多施設後ろ向き解析によりBRAF変異がある39人の患者を調査した。遺伝子変異によりV600E(グループA、n=21)とnon-V600E(グループB、n=18)の2群に分けた。さらにPD-L1発現を29人(74%)、mutation burden(TMB)を11人(28%)およびマイクロサテライト不安定性を12人(31%)でそれぞれ評価した。奏効率、免疫チェックポイント阻害薬による無増悪生存期間(PFS)、および全生存期間を解析した。PD-L1発現が高値(50%以上)が42%、中間値(1-49%)が32%、および発現なし(<1%未満)が26%であった。グループAではそれぞれ50%、10%、40%であった。グループAの2例は、高TMBであったが、マイクロサテライト不安定性が高いものは1例もなかった。免疫チェックポイント阻害薬投与を受けた22例(グループAが12例、Bが10例)の奏効率はそれぞれ25%と33%であった。無増悪生存期間中央値はそれぞれ3.7ヶ月対4.1ヶ月であった。BRAF変異型とPF-L1発現の両者とも、奏効、無増悪生存期間との関連がなかった。全生存期間の中央値には到達しなかったが、免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けていない患者は21.1ヶ月であった本試験によりBRAF変異陽性非小細胞肺癌は、高レベルのPD-L1発現、低/中間TMBおよびマイクロサテライト不安定性に関連する。免疫チェックポイント阻害薬は、V600Eおよびnon-V600E変異両方において抗腫瘍活性を有する。

感想
BRAF変異は今回の論文のようにV600E変異とそれ以外に分けて語られます。BRAF変異全体は非小細胞肺癌の2-3%ですが、V600E変異に限ると1%程度という報告が多いです。V600E変異は、EGFR遺伝子変異のように女性、非喫煙者に多いようですが、BRAF変異全体だと喫煙者にも見られます。これらの変異はプラチナベースの抗がん剤の効果が悪く、V600E変異に関しては最近保険適応となった、トラメチニブとダブラフェニブを併用することはよく知られています。昨年報告された臨床試験[Planchard D LancetOncol2017 PMID:28919011]では奏効率64%、無増悪生存期間14.6ヶ月と報告されました。今回は免疫チェックポイント阻害薬の効果と、PD-L1、TMBなどを総合解析した結果です。PD-L1染色については、50%以上がV600E変異で42%、non-V600Eが50%と両者ともやや多い印象です。TMBは症例数が全体的に少ない(n=11)ので断定できませんが、V600Eで高値が出ており、他のドライバー変異と少し違う可能性もありそうです。免疫チェックポイント阻害薬の奏効率は全体で28%、2次治療として入っている人が多く、既報の奏効率より若干高いように見えます。また背景の違いが大きいものの、免疫チェックポイント阻害薬が投与されているものは明らかに予後良好でした。したがってEGFR遺伝子変異とは違って、BRAF変異では一般集団と同様に、免疫チェックポイント阻害薬を考慮すべきであると言えます。ただ一点注意が必要なのは、PD-L1染色との相関性があまり見られず、Fig1を見ると、強陽性が、縮小と著明な増悪(hyperprogression)の両極端に分かれている点です。論文中では、これは偶然とは考えておらずこの集団に関してサンプルサイズが少なくよくわからないとしています。今後BRAF変異症例の集積が進み、PD-L1強発現でBRAF変異があった場合の方向性も徐々に明らかになることと思います。
さてROS1変異を担当しないまま、BRAF変異が測定可能となり、この「ペーパードライバー」感はどうしようもありません。自分の考えを固めるためには、まずBRAF変異の症例を身近で見てみないと思っています。臨床の面白さは、論文データと実地の症例をすり合わせ、あれこれ仮説を考えることにあるのではないでしょうか。