画像診断だけの肺癌への定位照射の安全性

Stereotactic body radiotherapy to treat small lung lesions clinically diagnosed as primary lung cancer by radiological examination: A prospective observational study.

Inoue T et al.
Lung Cancer. 2018 Aug;122:107-112.
PMID: 30032817

Abs of abs.
画像からは肺癌が濃厚に疑われるが、生検しても診断できないことがある。本研究では、原発性肺癌と臨床的に診断された肺の小病変を定位照射(SBRT)することのアウトカムを評価した。多施設共同前向き観察研究で行った。厳密な登録および除外基準は、全国的なコンセンサスを経て決定され、高精度画像を用いて原発性肺癌と臨床的に診断された患者を組み入れた。追加の外科的介入がある場合は適格とはならず、注意深い経過観察を拒絶しており、インフォームドコンセントを行った上でSBRTに耐えられるものが適格とされた。SBRTは照射野中心で48Gy/4Frで行った。2009年8月から2014年8月までに、11施設の62人の患者が登録された。年齢中央値は80歳[61-91]で腫瘍径は9-30mm(中央値18mm)であった。
フォローアップ期間中央値は55ヶ月であった。3年生存率は全患者で83.3%[71.1-90.7]、75歳未満では94.7%[68.1-99.2%]であった。局所再発、リンパ節転移および遠隔転移はそれぞれ4例(6.4%)、3例(4.8%)および11例(17.7%)であった。グレード3および4の毒性は、それぞれ8人(12.9%)および1人(1.6%)の患者で観察された。グレード5の毒性は認められなかった。厳しい適応基準を満たす原発性肺癌と臨床的に診断された肺病変に対するSBRTは安全かつ有効である。SBRTがこれらの患者のための代替治療になると確認するためには、前向きの介入研究が必要である。

感想
肺癌は最近著明に高齢化しているように感じています。おそらく私の施設だけの問題だけではなく全国的な傾向ではないかと思います。それに従ってGGNも含め小結節が発見されることも非常に増えています。心機能低下や低肺機能で気管支鏡すらためらわれる例、あるいは仮に診断をつけても外科切除不能で、間質性肺炎があって放射線照射もできない、しかしPETではⅠ期、といったように悩ましい症例に遭遇します。今回の研究は「画像診断で肺癌と思われるが、診断がつけられず手が出せない例にSBRTの安全性はどうか」という臨床疑問に答える非常に良い研究です。言い換えると「画像診断だけだが治療希望」という場合にSBRTの説明資料として使える結果になっています。毒性は呼吸器関連のグレード3が8例とグレード4が1例(呼吸困難感+低酸素+肺臓炎)でした。なお本試験はJCOGの定位放射線治療の研究に参加した施設中心に行われた前向き観察研究で、SBRTの手技には質的な保証がされています。毒性はごく軽度と言えそうです。
予後ですが、3年生存率が83.3%と良好でした。しかし死亡した14人のうち、肺癌関連で死亡したのが6人で、8人はそれ以外の要因で死亡しています。つまりこの集団は死亡だけでは治療効果を評価しにくいということになります。また登録された症例が本当に肺癌であったかどうかも明らかにできません。つまり悪性であったとしても転移あるいは小細胞肺癌も含まれる可能性があります。今回の登録のクライテリアは以下の通りです:(a)腫瘍径30㎜以下、(b)気管支鏡かCTガイド下での生検を一回以上試みたが診断がつかない、または合併症などの理由で生検が困難あるいは拒否されている、(c1)腫瘍の増大あるいはPET陽性である、(c2)PET陰性のGGNにおいては、pureGGNで10㎜以上で増大がある、あるいはGGNでsolid部分がある、(d)外科切除が禁忌あるいは拒否されている、(e)経過観察も拒否されている、(f)PSが0から2、(g)20歳以上、(h)臓器機能が保たれている、(i)胸部放射線照射歴なし、(j)室内気下で60Torr以上、(k)FEV1.0が700㏄以上、(l)インフォームドコンセントが得られている。一般臨床として極めて妥当な基準と思われますが、気管支鏡の正診率は熟達度やナビゲーションシステムなどの設備によって大きな施設格差があるでしょうし、合併症などの評価も一律には決められません。つまり通常の臨床研究と比較して不均一な集団と言えます。このため3年生存率が83.3%は良いとも言えるし、それほどでもないとも言えるかと思います。この問題に結論を出すためには無作為化試験が必要となるのは論を待ちませんが、合併症などで外科手術不能であるものの「治療希望」の人たちが、無作為化され無治療群に割り付けられた場合、納得できるはずもありません。したがって今回の結果は、画像診断だけの肺癌へのSBRTの信頼できるデータということであり、診療に応用されるべきデータであると言えると思います。