Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19.
Horby P et al.
N Engl J Med. 2021 Feb25;384(8):693-704.
PMID:32678530
Abs of abs.
新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は、びまん性肺障害を引き起こす。グルココルチコイドは炎症を介する肺損傷を調整しているため、それにより呼吸不全や死亡への進行を抑制する可能性がある。Covid-19で入院した患者を対象に、いくつかの治療を比較する非盲検対照試験を行った。デキサメタゾン(6mg 1日1回)を10日間まで経口または静脈内投与する群と、通常治療のみを受ける群に無作為に割り付けた。プライマリーアウトカムは28日間の死亡率であった。今回は最終結果を報告する。2104人がデキサメタゾン投与群に割り付けられ、4321人が通常治療群に割り付けられた。全体としてデキサメタゾン群で482人(22.9%)、通常治療群で1110人(25.7%)が28日以内に死亡した(年齢調整率比0.83[0.75-0.93];P<0.001)。死亡率のグループ間の割合差および絶対数の差は、無作為化時に患者が受けていた呼吸療法によってかなり異なっていた。デキサメタゾン群では、人工呼吸を受けている患者(29.3%対41.4%;比率0.64[0.51-0.81])および酸素投与を受けている患者では、死亡率が通常のケア群よりも低かった。侵襲的機械換気を行わずに酸素吸入を受けている患者(23.3% vs. 26.2%;比率0.82[0.72-0.94]では通常のケア群と比較して死亡率が低かった。一方で呼吸療法を受けていない患者(17.8% vs. 14.0%;比率1.19[0.92-1.55])では死亡率が高まった。Covid-19で入院した患者において、デキサメタゾンの使用は、人工呼吸・酸素投与を受けていた患者では28日死亡率を低下させたが、呼吸療法を受けていない患者での低下は見られなかった。
感想
今回のハイライトは、人工呼吸や酸素投与を受けている患者へのデキサメタゾンは死亡率低下につながるが、酸素投与を受けていない患者ではむしろ死亡率増加につながる、ということにあります(Fig2)。本研究の主目的は、全体としてのデキサメサゾン投与での28日間の死亡率の低下ですのでサブグループ解析で結論を出せないという見方もできます。意地悪くいえば都合よい結果を切り出した可能性もあります。ただ本文にもあり、プロトコールのp80にpre-specified subgroupが定義されており、それによるとランダム化時の呼吸補助の必要性(無、酸素のみ、呼吸器、ECMO)と書かれており事前規定された解析であることが伺えます。もちろん統計的な調整はなされておらずあくまで探索的解析の範囲になります(そのためP値は無記載)。
当初はCovid診療にステロイドは否定的でしたが、この試験をもって使用推奨がなされたことから、全体のコンセンサスを得られたのだろうと想像します。
軽症例では過剰な免疫反応が起こっておらず、ステロイドは逆効果、中等症異常では免疫反応が過剰でSIRSのようになっておりステロイド治療が有効と非常に理解しやすい結果です。しかしステロイドをいつどれくらいで投与するのが最適なのか、基礎疾患、人種など細かく考慮すべき事柄は山ほどあります。
今回この論文を取り上げたのは、CovidとICI治療の考えることが非常に似ているような気がしたからです。通常、がんの個別化医療というとドライバー変異遺伝子による治療選択を意味しますが、ウイルス、癌といった相手の状態と、自分の炎症・免疫状態をある程度判断し治療を選んでいくことも立派な個別化医療ではないかと思います。