EGFR遺伝子変異陽性に対するPACIFICレジメン

Durvalumab After Chemoradiotherapy in Unresectable StageⅢ EGFR-Mutant NSCLC: A Post Hoc Subgroup Analysis From PACIFIC.

Naidoo J et al.
J Thorac Oncol. 2023 Feb 24 ahead of print.
PMID:36841540.

Abs of abs.
PACIFIC試験の結果から、化学放射線療法後に進行しなかった切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌に対して、デュルバルマブ地固め療法が標準とされている。しかしEGFR遺伝子変異陽性おける免疫療法の有用性についてはよくわかっていない。今回はPACIFIC試験で得られたEGFR遺伝子変異陽性のサブグループからの事後探索的な解析として有効性と安全性について報告する。Ⅲ期の切除不能非小細胞肺癌で、プラチナ製剤を用いた化学放射線同時療法を2サイクル以上施行後、進行しなかった患者を、年齢、性別、喫煙歴で層別化し、デュルバルマブ最長1年間、またはプラセボ投与に2:1の割合で割り付けた。登録はドライバー変異やPD-L1発現による制限をしていない。このサブグループ解析には、施設内検査のみで判定されたEGFR遺伝子変異も含まれていた。主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS:独立中央判定)および全生存期間(OS)であった。副次的評価項目は、奏効率および安全性とした。今回のサブグループ解析は探索的なものである。無作為化された713人の患者のうち、35人にEGFR遺伝子変異が確認された(デュルバルマブ、n=24、プラセボ、n=11)。このサブグループの生存期間中央値は42.7カ月[3.7~74.3]であった。PFS中央値は、デュルバルマブ投与群で11.2カ月[7.3-20.7]、プラセボ群で10.9カ月[1.9-NE]、ハザード比0.91[0.39-2.13]であった。OS中央値は、デュルバルマブ投与群で46.8カ月[29.9-NE]、プラセボ群で43.0カ月[14.9-NE]、ハザード比1.02[0.39-2.63]であった。デュルバルマブの安全性は、概ね全体集団と一致していた。今回の結果からEGFR遺伝子変異陽性例においてデュルバルマブのPFSおよびOSは、プラセボと同等であり、広い信頼区間となった。これらのデータは患者数が少ないこと、腫瘍バイオマーカー別でのアウトカムを評価する前向き研究がないことから解釈には注意が必要である。この集団に対する最適な治療法を決定するために、さらなる研究が求められる。

感想
EGFR遺伝子変異をはじめとする分子標的治療が著効する集団に対する放射線化学療法の意義、さらに維持/地固め療法については議論が続いています。PACIFIC試験は化学放射線治療が終わった段階でのランダム化なので、純粋にデュルバルマブ、つまり免疫チェックポイント阻害薬の維持効果を見ているとも取れます。PFSは完全に交差しており、Ⅳ期であまり効かないという印象どおり維持療法の効果はpositiveとは言えません。では地固めしないことが正当化されるか?といえば、症例数が少ないためそれも言えません。考察にも述べられているように前向き試験が進行中ですからその結果が出るまでは、たとえEGFR遺伝子変異陽性とわかっていても粛々とデュルバルマブを提示するのがエビデンスの奴隷たる私たちの使命でしょう。これとは別にRETの話ではありますが、効果の高いとわかっているドライバー変異に対する分子標的治療に対して、すべて第Ⅲ相試験が必要か?という疑問が同じ号のエディトリアルで取り上げられています。個別化医療は進むところは猛烈な勢いで進んでおり、これまでの臨床試験の進め方では対応できなくなっていることも事実です。エビデンスは重視しながらも「料理本医療」と揶揄される一律な治療の時代はとうに過ぎており、再度匙加減も必要な時代に逆戻りしてきた感もあります。前回とよく似て臨床判断の難しい問題を取り上げましたが、それだけ情報量が多くなり、逆に悩む場面が多くなっているということです。