EGFR遺伝子変異陽性かつPD-L1強陽性で、TKI前のペムブロリズマブ投与

A Phase II Study of Pembrolizumab in EGFR-Mutant, PD-L1+, Tyrosine Kinase Inhibitor Naive Patients With Advanced NSCLC.

Lisberg A et al.
J Thorac Oncol. 2018 Aug;13(8):1138-1145.
PMID: 29874546

Abs of abs.
非小細胞肺癌におけるペムブロリズマブが持つ抗腫瘍活性にもかかわらず、EGFR遺伝子が野生型の患者と比較してEGFR遺伝子変異陽性例には臨床的利益があまり見られない。KEYNOTE-001試験での単一施設での経験では、EGFR遺伝子変異陽性患者においてチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)が未使用であった場合、TKI治療後よりも優れた臨床転帰を有することが示唆された。TKI未使用EGFR遺伝子変異陽性例は一般にペムブロリズマブの臨床試験から除外されている。このため特にPDL-1発現が50%以上場合に、治療決定を行うためのデータがない。今回は、EGFR遺伝子変異陽性、進行非小細胞肺癌であって、PD-L1陽性(1%以上、22C3抗体)であるTKI未使用の患者に対するペムブロリズマブの第II相試験を行った。ペンブロリズマブは、3週間ごとに200mg投与された。主要エンドポイントは奏効率である。副次評価項目は、ペムブロリズマブの安全性、ペムブロリズマブ有効性、ペムブロリズマブ後のEGFR-TKIの有効性と安全性である。当初25人の予定であったが、11人が治療された後、有効性が見られないことから登録が中止された。患者の82%が未治療であり、64%がEGFR遺伝子変異陽性であり、73%がPD-L1発現が50%以上であった。1人(9%)が奏効を示したが、この患者の腫瘍を再度確認したところ、EGFR遺伝子変異の元の報告が誤っていることが判明した。治療関連の有害事象は、既存のものと変わりなかったが、肺炎に起因するものを含めて、登録6ヶ月以内に2人の死亡が見られた。本研究から、EGFR遺伝子変異陽性、進行非小細胞肺癌で、TKI未治療の患者に対して、PD-L1発現が50%以上を含めてもペムブロリズマブは適切な治療選択ではないことを示唆している。

感想
抗がん剤の決定に提出すべき検査が増えています。非小細胞非扁平上皮癌と決定すると、EGFR遺伝子変異、ALK免疫染色、ROS1免疫染色、BRAF遺伝子変異、PD-L1染色を提出します。これらがすべて相互排他的であればよいのですが、時にEGFR遺伝子変異陽性、PD-L1≧50%の症例があり、初回治療に迷うことがあります。現在ではEGFR遺伝子変異などのドライバー変異の治療を優先すべきと考えることが多いですが、あくまでも後ろ向き解析のデータであり、決着はついていませんでした。今回はその議論にかなりのエビデンスを加えるものです。
登録されたのはEGFR遺伝子変異陽性(ここで注意すべきは19Del,L858Rだけではなく、minor mutationもかなり含まれている点です)かつPD-L1陽性である11例です。症例設定は奏効率が26%以上と仮定し25例を予定していました。しかし0/11と奏効例が1例もなく中止されています。その奏効率は2項分布に従うと仮定した場合、95%信頼区間の上限が30.8%になり、見込み無しと判断されたと思われます。PD-L1>=1%が基準ですが、3/4の症例で50%以上あり、ペムブロリズマブがかなり期待できそうな集団が登録されています。しかし標的病変が10%以上縮んだものが1例しかなく、引き続くエルロチニブで肺臓炎の死亡例が出るといった散々な結果でした。逐次的なTKIの治療期間中央値も119日と良くない結果ですが、exon20 insといったTKIの効果に乏しいものも含まれており、ペムブロリズマブ後のTKIの効果が落ちるとまでは結論できません。また今回は奏効率で評価しています。奏効がなくとも投与が考慮される場合として、BRAF陽性黒色腫のレビュー[Jang S LancetOncol2013 PMID:23369684]から、順序による増強効果が期待できる、次の治療に影響を与えない、順序を変えても安全性が同等とみられることを条件として挙げています。この点からも今回の試験結果はネガティブです。本論文はエディトリアルでも取り上げられており、ネガティブなことは認めつつ、IMpower150試験で示された併用療法での可能性、PD-L1よりもmutation burdenの問題に言及しています。これについては異論はありませんが、本試験によって、EGFR遺伝子変異陽性とPD-L1強陽性で併存している場合、TKIを先に使い終わってから免疫チェックポイント阻害薬の使用を考えていくという従来の方針が確認できたと言えます。免疫+抗がん剤の併用療法の後のTKIについてはデータが不足しています。これが、全生存期間において初回治療としてのTKIに少なくとも劣らないことを確認する必要があります。私はそのデータを見ないと、TKIナイーブな状態で免疫チェックポイント阻害薬を使わないと思います。