EGFR-TKI耐性後の免疫治療 vs 殺細胞性抗がん剤

A Randomized Phase II Study Comparing Nivolumab with Carboplatin-Pemetrexed for EGFR-Mutated NSCLC with Resistance to EGFR Tyrosine Kinase Inhibitors (WJOG8515L).

Hayashi H et al.
Clin Cancer Res. 2021 Dec 17. Epub ahead of print.
PMID:34921023.

Abs of abs,
EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌に対するPD-1阻害薬の効果は低いとされているが、EGFR-TKIで腫瘍微小環境を改善している可能性もある。今回は、EGFR-TKIによる治療歴のある患者において、ニボルマブが化学療法と比較して予後を改善するかどうかを検証するランダム化試験を行った。T790M変異以外でEGFR-TKI耐性を獲得した患者を、ニボルマブ(n=52)またはカルボプラチン+ペメトレキセド(n=50)に1:1で無作為に割り付けた。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)とした。PFS中央値および1年PFS率は、ニボルマブで1.7ヶ月、9.6%、カルボプラチン-ペメトレキセドで5.6ヶ月、14.0%であった[P<0.001;ハザード比1.92[60%CI 1.61-2.29]]。全生存期間は20.7ヶ月対19.9ヶ月[ハザード比0.88[95%CI 0.53-1.47]]で,奏効率はそれぞれ9.6%対36.0%であった.TMBが高い患者のサブグループでも、ニボルマブがカルボプラチン-ペメトレキセドよりもPFSが大きく延長することはなかった。T細胞性炎症遺伝子発現スコア(0.11 対 -0.17、P = 0.036)と細胞障害性Tリンパ球やその動員に関する遺伝子の発現は、ニボルマブの利益があった腫瘍でより高かった。本研究からニボルマブはカルボプラチン-ペメトレキセドと比較して、全体のPFS延長は見られなかった。遺伝子発現プロファイリングにより、ニボルマブの有効性に関連する腫瘍免疫微小環境を持つ集団があることが知られた。

感想
非常に示唆に富む研究です。EGFR遺伝子変異陽性でTKIが効かなくなった場合、免疫療法を試すこともありますが、経験上多くの場合あまり効きません。表面上はそれを確認するような研究になっていますが、重要なのはそこではありません。ニボルマブはわずかに9.6%のレスポンスでしたが、6ヶ月以上PFSが保てた群とそうでない群を分子レベルで比較しています。つまりEGFR遺伝子変異陽性ではあるけれど、免疫療法に恩恵を受けられそうな集団を遺伝子レベルで特定する研究です。もはやそこにはTMBやPD-L1は関係なく”T cell–inflamed GEP score”が高い集団が有望であり、EGFR遺伝子変異やその下流シグナルの活性化が維持されている場合は望み薄という結論です。”T cell–inflamed GEP score”は、T細胞、CD8+T細胞、細胞障害性リンパ球、単球系などの18遺伝子をもとにしたスコアです。このスコアとTMBが臓器横断的に免疫療法の効果を予測することは引用文献[Cristescu R Science2018 PMID:30309915]で詳述されています。ついでにと言っては難ですが、VEGFAなどの血管新生関連遺伝子や、免疫抑制調節に関わるアデノシンを生成するCD73の遺伝子(NT5E)も有望かもしれないことも示しています。
これらは臨床的にすぐ入手できるものではありません。これは想像を加えた私見ですが、PFSのサブグループ解析をひいき目に見ると、75歳以上、TKI奏効期間が270日未満、脳転移がない、PD-L1=50%以上が少しニボルマブが良さそうです。つまり若くて、脳転移を含めた全身転移を来しており、TKIが著効するようなパターンでは免疫療法が望み薄ということになります。