HPDは疲弊T細胞と関連する

Hyperprogressive disease during PD-1/PD-L1 blockade in patients with non-small-cell lung cancer.

Kim CG,
Ann Oncol. 2019 Apr 12. [Epub ahead of print]
PMID: 30977778

Abs of abs.
PD-1/PD-L1阻害薬はさまざまな悪性腫瘍に有効であり、非小細胞肺癌の標準治療と見なされている。しかし、最近の研究によると、PD-1/PD-L1阻害は、hyperprogressive disease(HPD)を引き起こし、予後不良につながる腫瘍フレアに関係する可能性がある。本研究は、PD-1/PD-L1阻害薬で治療された非小細胞肺癌患者におけるHPDの発生率を評価し、HPDに関連する因子を同定することを目的とした。2014年4月から2018年11月の間に、PD-1/PD-L1阻害剤で治療された再発または転移性非小細胞肺癌患者を登録した。臨床病理情報、腫瘍増殖変化、治療転帰を解析した。 HPDは、腫瘍増殖動態(TGK)、腫瘍増殖速度(TGR)、および治療失敗までの時間(TTF)で定義された。末梢血CD8+Tリンパ球の表現型検査を行い、HPDの潜在的な予測バイオマーカーを探索し、合計263人の患者が分析された。HPDは、TGKで55人(20.9%)、TGRで54人(20.5%)、TTFで98人(37.3%)の患者で観察された。TGKとTGRの両方の基準を満たすHPDは、HPDなしと比較し無増悪生存期間の短縮(ハザード比4.619[2.868-7.440])および全生存期間(ハザード比5.079[3.136-8.226])と関連していた。臨床病理情報とHPDの間に明確な関係はなかった。末梢血CD8+Tリンパ球を用いた探索的バイオマーカー分析において、エフェクター/メモリーサブセット(CD8+T細胞の中のCCR7-CD45RA−T細胞)が低いこと、および重度に疲労した集団(PD−1+CD8+T細胞の中のTIGIT+T細胞)はHPDおよび生存率低下と関連していた。結論としてHPDは、PD-1/PD-L1阻害剤で治療された非小細胞肺癌患者によく見られている。適切にバイオマーカーを設定すれば、HPDと悪いアウトカムをうまく予測できるかもしれない。

感想
HPD(適切な日本語訳がありません。世間では「ハイパーPD」呼ぶ人が多いようです)が末梢血中の疲弊化リンパ球と関係するのではないかという論文です。リンパ球の疲弊化とは、炎症、腫瘍などで慢性的な活性化が続くと、PD-1、CTLA-4、Tim3、Lag3、TIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)などが誘導され、機能低下が起こり、結果として腫瘍攻撃などがうまくできなくなることを指します。今回採用されたHPDの定義は、腫瘍増殖速度が2倍以上になる、またはTTFが2ヶ月未満が採用されています。この定義の議論はさておき、今回の結果の焦点はFig4です。まず、末梢血中のeffector/memory T細胞(CD8+T細胞かつCCR7-CD45RA−)は、HPD群で低下、またPR/SD群とHPDではないPD群で同等でした。一方疲弊T細胞(PD−1+CD8+T細胞かつTIGIT+)は、HPDで高く、PR/SD群とHPDではないPD群で同等でした。これの意味するところとして、PD-L1阻害薬が効く効かないはともかく、HPDとPDは区別されうるということ、腫瘍そのものの影響というより、HPDは事前の免疫状態に左右されるということになります。リンパ球が疲弊化するとなぜHPDになるかについては、論文を読む限りはっきりせず、今回の疲弊リンパ球をCD8+に絞ったことで結果が得られたと解釈されています。PD-L1阻害薬によって疲弊化したリンパ球の再活性化が起こり、その回復数が多ければより強い有害事象を引き起こす可能性があるかと思います。ただこの疲弊化リンパ球が真の原因なのか、それとも別に核になる現象があってその結果としてのリンパ球の疲弊なのかはこれからの課題です。遊びですが、”t cell exhaustion , lung”で検索すると、結核腫ではT細胞の疲弊が少ないという論文[Wong EA, Infect Immun2018 PMID:29891540]がありました。また免疫関連有害事象は、T細胞の疲弊と再活性化と関連があるのではないかとも考えられ、そのような報告もされています[Kunimasa K InvestNewDrugs2018 PMID:29947012]。