L858Rと19DelのTKI反応性の差は共存する変異の差?

Impact of Tumor Suppressor Gene Co-Mutations on Differential Response to EGFR TKI Therapy in EGFR L858R and Exon 19 Deletion

Hellyer JA et al.
Clin Lung Cancer. 2022 May;23(3):264-272.
PMID:34838441.

Abs of abs.
多くの研究において、L858R変異は、19Delに比べ、EGFR-TKI治療への奏効期間が短いとされる。この結果に共存変異(co-mutations)が果たす役割は不明である。2014年から2019年の間に初回治療としてEGFR-TKIを受けたEGFR遺伝子変異非小細胞肺癌(L858R/19Del)患者で、130遺伝子が測定できる次世代シーケンス(NGS)を受けた患者について後ろ向き解析を行った。年齢、人種、脳転移で調整したCoxモデルを用いて、治療失敗までの期間(TTF)および生存率を推定した。主ながん抑制遺伝子(TP53、RB1、KEAP1、CDKN2A、CTNNB1)の共存があるかを測定し、転帰に与える影響を考察した。解析は初回治療としてのEGFR-TKIがオシメルチニブかどうかで層別化した。137例中72例(57%)が19Del、65例(43%)がL858R変異であった。単変量解析では、L858Rで初回治療のTTFおよびOSの中央値が短かった。調整後も、TTFではこの差が維持されたが、OSでは有意ではなくなった。L858RにおけるTTFの差は、主要ながん抑制遺伝子における共存変異によるものであった。19Delと比較して、L858Rは、初回治療のTKIでのTTFが短かった。がん抑制遺伝子の共存変異は、TKI治療への反応性の差に重要な役割を果たしている可能性がある。

感想
EGFR遺伝子変異陽性例に対してはオシメルチニブ一択が現状です。しかし実臨床での経過はさまざまで思ったより早く増悪するケースにも遭遇します。L858R/19DelではTKIの作用ポイントが若干違っており、親和性の問題、今回取り上げられた抑制因子の欠如の問題などさまざまに議論されています。本文を読むと今回の集団でTP53変異は19Delで58%、L858Rで60%などかなり効率に検出されています。主要ながん抑制遺伝子はTP53、RB1、KEAP1、CDKN2A、CTNNB1ですが、一般施設での測定は現実的ではありません。特にこの影響を受けるのがL858Rで、総合して19Delに負けている理由と想定されています。今回はPD-L1発現との関連も調べられていますが、TTF、OSとも関連があまりなかったとの結論です。ただオシメルチニブ以外で治療された場合PD-L1≧25%はTTF短縮と関連がありそう(P=0.04)でした。EGFR遺伝子変異陽性の肺癌は分子生物学的には均一で、薬との関係は比較的理解しやすいものとの印象でしたが、実は個々では複雑な背景があり多角的な検討の余地がまだまだ残されていそうです。